声明・意見書

憲法改正手続法の改正を受けた会長声明

 2021年6月11日、日本国憲法の改正手続に関する法律(以下「憲法改正手続法」)の改正案が参議院で可決、成立した。

 本改正は、憲法改正に必要な国民投票について、大型商業施設への共通投票所の設置や期日前投票の弾力化、投票所への入場可能な子どもの範囲拡大など、2016年の公職選挙法改正によって設けられた投票環境整備のための7項目を、憲法改正手続法にも導入するものである。

 憲法改正手続法は2007年に制定されたが、その制定にかかる国会審議中から、最低投票率の定めや有料広告規制についての定めがないことなど根本的な問題点が指摘され、これらを含む18項目について措置を講ずるとの参議院附帯決議が付された。そして当会は、制定過程時から、「「憲法改正国民投票法案」に反対する会長声明」(2006年6月9日)、「「憲法改正国民投票法案」に反対する声明」(2007年3月19日)、「「憲法改正国民投票法案」の参議院での廃案を求める声明」(同年4月13日)、「「憲法改正国民投票法」の見直しを求める声明」(2007年5月15日)を発するとともに、2018年の憲法記念日には「日本国憲法の価値を再確認するとともに、現行の憲法改正国民投票法のもとで憲法改正を行うことに反対する会長声明」(2018年5月3日)を発して、以下のように問題点を指摘してきた。

• 最低投票率を定めていないため、ごく少数の国民だけの賛成による憲法改正がなされかねない。
• 国民投票運動のための有料広告放送が投票期日15日前まで自由にできることとなっており、一方的、扇情的かつ大量の有料広告が放送されると、国民の冷静な判断が阻害され、歪められた民意が投票結果に反映されかねない。
• 国会で発議されてから国民投票までの期間は60日以後180日以内とされているが、これだけ重要であり大きな問題について国民が十分な議論を重ねるためには、あまりに短かすぎる。
• 「内容において関連する事項ごとに」投票できるとしているが、国民の正確な意思を反映させるため、条文ごとに投票できる個別投票を原則とすべきである。
• 公務員・教育者の国民投票運動が曖昧な文言で制限されている。

 いうまでもなく、憲法改正国民投票は、主権者である国民が、国の最高法規である憲法のあり方に関して意見を表明するものであり、国民の基本的な権利行使にかかわる重大な問題であるから、あくまでも国民主権の原理に立脚し、かつ国民がこの問題について十分かつ自由に意見の表明ができることが保障されなければならない。そのためには、上記指摘した問題点の解消が必要不可欠である。しかし、今回の改正は、これらの問題点を何ら改善することなく、投票技術的な点のみを改正したに過ぎない。有料広告規制については法施行後3年を目途に必要な法制上の措置等を講ずる旨の附則が付されたが、その具体的内容は現時点で何ら明らかではなく、その他の前述の問題点については附則さえない。しかも、期日前投票の弾力化という今回の改正により、期日前投票の時間が短縮される場合があるとの新たな問題点も指摘されている。
 以上のように、憲法改正手続法は、改正後も本質的な問題点が何ら改正されておらず、国の最高法規である憲法を改正するための手続法として、極めて不十分であると言わざるを得ない。このような手続法の下で憲法改正の発議がなされた場合、国民主権原理の下での正当性を欠いた国民投票が実施されることになりかねない。
 当会は、このような不十分な憲法改正手続法の下で憲法改正の発議がなされることに反対するものである。

                2021年7月29日
札幌弁護士会
会長 坂口 唯彦

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