入管法改定案の再提出に反対する会長声明
報道によれば、政府は、2021(令和3)年に廃案となった入管法の改正案について、当初案の骨格を維持したまま、今年度の通常国会に再提出する方針とのことである。
これまでに、当会は会長声明により、廃案となった入管法の改正案に対する反対意見を表明し、長期収容問題を本質的に解決する実効性のある法改正を迅速に行うことを政府に要請してきたところであり(2020(令和2)年12月7日付「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する会長声明、2021(令和3)年6月24日付「名古屋出入国在留管理局における被収容者の死亡事件に関する原因解明及び入管行政の抜本的な見直しを求める会長声明」)、他会からも同様の要請が複数なされていた状況にある。
また、2021(令和3)年9月22日には東京高裁において、難民不認定処分に対する異議申立ての棄却告知の翌日に行われたチャーター便による一斉送還について、訴訟を起こす時間を与えられずに強制送還させられたことが、「憲法32条で保障する裁判を受ける権利を侵害し、同31条の適正手続の保障及びこれと結びついた同13条に反する」と判示し、国家賠償請求が認められた。この判決は、難民申請を送還忌避が目的であると決めつけた当局の運用につき違憲であると明確に判示したものである。
さらに、2022(令和4)年11月3日には、国連自由権規約委員会が、その総括所見において、国際基準に則った包括的な難民保護法制の採用や仮放免中の移民に対する必要な支援等の検討、収容期間の上限導入、収容についての実効的な司法審査の導入等を日本政府に対して勧告した。
このように、難民を含む外国人の人権をより尊重すべきと国内外から要請されているにもかかわらず、今回の改正案は、依然として、難民を含む外国人の人権を軽視していると言わざるを得ない。
例えば、難民認定申請者の本国送還を停止する回数が原則2回までと制限されており、3回目以降の難民認定申請者は送還可能となっている。今回の改正案も、迫害を受ける恐れのある国に送還することを禁じている難民の地位に関する条約第33条1項(ノン・ルフールマンの原則)に反し、我が国も批准する条約の基準を踏み外している状況に変わりはない。
憲法第98条2項は、国際法の誠実な遵守を謳っているのであり、このような問題を抱える改正案を再提出し、数の力で強引に押し通すことは、決して許されることではない。
出入国在留管理庁によれば、2021(令和3)年における難民認定申請者数は2413人であったのに対し、難民と認定したのは74人であった。欧米に比べ、依然として極めて低い水準である。ロシアによるウクライナ侵攻により、ウクライナからの難民の発生が国際問題となっている中、今はまさに、紛争や迫害で追われた難民をどう支援するかについて積極的に議論すべき時期である。
当会は、政府に対し、今国会において、従前廃案となった入管法の改正案の骨格を維持したままの法案を再提出することに反対するとともに、入管政策や難民認定制度について根本から見直し、国際法を遵守した法整備を行うよう強く求めるものである。
2023(令和5)年3月8日
札幌弁護士会
会長 佐藤 昭彦