声明・意見書

簡易裁判所、家庭裁判所の調停委員、司法委員等を採用するにあたって 国籍を問わない運用に改めることを求める会長声明

  1.  2022(令和4)年9月、大阪地方裁判所は大阪弁護士会が行った韓国籍の同会会員の司法委員の推薦に対し、選任しないことを決定し、家事調停委員については最高裁判所への任命上申を拒否した。これまで各地の弁護士会が調停委員、司法委員あるいは参与員(以下、「調停委員等」という。)の候補者として外国籍の弁護士を推薦してきたが、最高裁判所はいずれも日本国籍を有しないことを理由にその採用を拒否し続けてきた。その人数は2003(平成15)年以降、延べ40人を超えるに至っている。
     この間、最高裁判所は、2004(平成16)年に日本弁護士連合会からの照会に対し、法令等の明文上の根拠規定はないとしながらも、「公権力の行使にあたる行為を行い、もしくは重要な施策に関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とする公務員には、日本国籍を有する者が就任することが想定されていると考えられるところ、調停委員・司法委員はこれらの公務員に該当するため、その就任のためには日本国籍が必要と考えている。」と回答した。
  2.  ところで、日本では、短期滞在を除く在留外国人は既に296万人(2022年6月時点)に達しているところ、2020(令和2)年4月からは労働力不足の解消のために外国人労働者の受け入れを拡大しており、今後も国際化の流れの中で在留外国人の数は増加の一途を辿り、これに比例して外国人を当事者とする紛争が増加することも想定される。その結果、外国人が日本の調停制度等を利用する機会は増大していくことが見込まれる。
     裁判所がこのような外国人に関わる紛争を調停等により円満な解決に導くためには、日本に暮らす外国人も調停委員等となることで、当事者である外国人の言語、生活習慣、文化的背景等に理解を示しつつ、日本の文化や法体系等についての知識を活かして事案の解決にあたることが有益なことはいうまでもない。事案に適した能力を有する調停委員等に事案を配点するという観点に立ち返れば、国籍に関わらず調停委員等に採用することには積極的な意義と必要性がある。
  3.  最高裁判所の回答の中にもあるように、一般的に国民主権原理との関係では、権力作用のある公務には外国人は就任できないとされる。
     しかし、調停委員等の主たる役割は、事件当事者の話に耳を傾けその知識経験を活かして当事者の合意を斡旋し、互譲による紛争解決を支援することにあり、その職務遂行において権力作用を見出すことはできない。しかも、調停委員等の関与はあくまでも裁判官の下で行われるのであるから、調停委員等は、司法等の権限行使に直接又は間接に関与する場面すら想定されていないのである。
     このように日本国籍を持たない者が調停委員等に就任しても国民主権原理に抵触することはない。
  4.  今後ますます進展することが確実な国際化の流れの中で、日本国籍がないというだけの理由で調停委員等の選任から外国籍の候補者を排除することに合理性を見出すことは全くできない。
     日本国籍の有無にかかわらず、調停委員等に選任されるにふさわしい人格識見、経験あるいは専門的知見を有するかどうかで採用の当否を判断すべきである。
     既に、国連の人種差別撤廃委員会は、日本政府に対し、日本国籍を有しない者が調停委員として活動できるように国の見解を見直すことを勧告している(2010年3月9日最終所見及び2014年8月28日総括所見)。
  5.  以上の次第で、外国籍の調停委員等の採用は国民主権原理との抵触がなく、これを拒絶すべき憲法上の要請はないばかりか、日本に在留する外国人の数が増大していることや国際化という時代の流れを踏まえるならば、今後は、積極的に外国籍の調停委員等を採用し、広くその知見を活用することこそ、日本の司法制度にとって有益である。
     当会は、日本の司法制度をより一層充実したものにするべく、最高裁判所に対し、簡易裁判所、家庭裁判所の調停委員、司法委員等を採用するにあたっては国籍を問わない運用に改めることを求めるものである。

2023(令和5)年3月28日
札幌弁護士会
会長 佐藤 昭彦

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