憲法記念日にあたっての会長声明
本日、憲法記念日を迎えました。日本国憲法が施行されて76周年になります。
日本国憲法は、一人ひとりがかけがえのない存在であるという「個人の尊厳」を最も重要な価値とし、それを保ち発展させるために、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を人類普遍の原理としています。これは将来にわたり護り続けていくべき尊い理念であるとともに、今私たちが直面している様々な課題に対して指針を示してくれるものでもあります。
昨年2月24日にロシア連邦がウクライナに対して軍事侵攻を開始してから、1年以上が経過しました。多くの市民が命を奪われまたその危機にさらされる、また生活の場もコミュニティも失われるという状態が、いまだに日々続いています。この現実から、私たちは目をそらすことはできません。そして、この戦争を1日も早く終わらせなければならないという思いとともに、このような戦争を起こしてはならず、戦争を起こさないような行動、政策の積み重ねに努めていくことこそが、平和を築くための最善の方法であるとの確信を抱いております。
このような中、日本国内では、昨年12月に、政府がいわゆる安保三文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)を閣議決定しました。ここでは、「我が国は、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」との認識のもと、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を含めた「安全保障政策の大転換」を進めていくとしています。また、そのための「防衛」予算も大幅に増加するとの方針も含まれています。
この閣議決定に対し、当会は、本年3月6日、「「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有に反対し、即時撤回を求める会長声明」を発出しました。ここでは、相手国が持つ攻撃力に対し、同様に相手国を直接に攻撃する「反撃能力」で対抗するという抑止論を押し出すことは、無限の軍拡競争を招くだけでなく、その「反撃能力」を持つことにより相手国による直接の攻撃対象となり得るため、そのような状況は平和を享受しているといえるものではないと指摘しました。
現在南西諸島への自衛隊施設の整備が進められているところ、当該地域の沖縄県石垣市議会では2022年12月19日付意見書を採択し、その中で「ここにきて突然、市民への説明がないまま、他国の領土を直接攻撃するミサイル配備の動きに、市民の間で動揺が広がっており、今まで以上の緊張感を作りだし危機を呼び込むのではないかと心配の声は尽きない。」と、「反撃能力」を有する兵器の配備について懸念の声が示されています。このような兵器を配備することで他国からの攻撃対象となりかねない状況が生じ、かえって、新たな不安を生じさせているのです。
日本国憲法は「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」(前文)、「武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」(第9条)と規定しています。また、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と規定して(前文)、徹底した恒久平和主義に立脚し、外交と信頼関係による平和構築を目指すことを宣言しています。
このような日本国憲法の理念は、安全保障環境の変化という現実があったとしてもその内容が変わるものではなく、むしろそのようなときにこそ、その価値が発揮されるべきです。武力ではなく、対話による国際紛争解決の道を追求することが憲法の理念に適うものです。
当会は、憲法記念日にあたり、日本国憲法の価値を再確認し、私たちの国が国内問題においても国際問題においても、この憲法価値を実現すべく行動していくことを訴えるとともに、政府が日本国憲法の恒久平和主義の理念に基づき、外交と対話による安全保障を追求することを求めるものです。
2023(令和5)年5月3日
札幌弁護士会
会長 清水 智