性同一性障害者特例法の生殖不能要件に関する最高裁違憲決定についての会長談話
2023(令和5年)11月10日
札幌弁護士会
会長 清水 智
2023年10月25日、最高裁判所大法廷は、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」という。)3条1項の規定に基づき性別の取扱いの変更の審判を申し立てた事案について、生殖腺除去等を求める特例法3条1項4号(いわゆる生殖不能要件。以下「4号要件」という。)が憲法13条に違反し無効であるとの決定を下した(以下「本件決定」という)。
本件決定は4号要件について、生殖腺除去手術を要しない性同一性障害者に対し、身体への侵襲を受けない自由を放棄して強度な身体的侵襲である生殖腺除去手術を受けることを甘受するか、又は性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を放棄して性別変更審判を受けることを断念するかという過酷な二者択一を迫るものであり、過剰な制約を課すものであると断じた。
4号要件を合憲とした2019年1月23日最高裁第二小法廷決定からわずか4年後に15人の判事全員一致で違憲判断をしたその英断に敬意を表するとともに、この4年の間にも本件決定の指摘する「過酷な二者択一」を迫られてきた人たちがいることに思いを馳せたい。
他方で、本決定は外性器の除去・形成等を求める特例法3条1項5号(いわゆる外観要件。以下、「5号要件」という。)については原審に差し戻したところ、この判断に対しては3人の判事による反対意見が付されており、5号要件についても4号要件と同様の「過酷な二者択一」を迫るものであり違憲無効とすべきであるとの指摘がされた。「5号規定が違憲とされる社会は、憲法が体現している諸理念に照らして、5号規定が合憲とされる社会に比べてより善い社会である」(草野反対意見)「指定された性と性自認が一致しない者の苦痛や不利益は、その尊厳と生存に関わる広範な問題を含んでいる。民主主義的なプロセスにおいて、このような少数者の権利利益が軽んじられてはならない。」(三浦反対意見)といった反対意見の指摘は基本的人権を尊重する日本国憲法の理念に沿うものであり、当会はこれらの反対意見に賛同する。
当会は、差戻審の審理結果を待つことで当事者の苦痛や不利益をさらに引き延ばすのではなく、国会において4号要件及び5号要件の撤廃を含む法改正に直ちに着手し速やかに解決を図るよう立法府の対応を求める。
また、当会はこれまで、性の多様性尊重推進を当会全体として取り組むべき重要かつ喫緊の課題と位置付け、2022年に策定した第一次男女共同参画・性の多様性尊重推進基本計画をはじめとする対外的発信やレインボープライドへの参加等の活動を行ってきた。
これにとどまらず,この「過酷な二者択一」を迫られてきた/いる人たちがいることを踏まえ、当会は司法の一翼を担い基本的人権の尊重を使命とする弁護士の団体として、今後もこの重要かつ喫緊の人権課題に取り組む所存である。
以上