声明・意見書

裁判所速記官制度の維持と裁判における審理の充実を求める会長声明

  1.  民事、刑事を問わず裁判手続において当事者や証人などの尋問、陳述を詳細かつ正確に録取し、記録化されることは公正な裁判(憲法31条)を実現する上で必要不可欠である。
     裁判では、文書や画像等の物的証拠だけでなく、当事者や証人等の証言が重要であることは論を待たない。とりわけ刑事裁判では、証人による証言が犯罪事実の立証を左右することがあり、特に重要である。
     この証言の記録化を担ってきたのが速記官であり、裁判所法60条の2は裁判所に速記官を置くと規定する。
  2.  ところが最高裁判所は1997年に速記官の養成を停止することを決定し、翌年から停止された。その結果、1997年では速記官は全国で825人であったものが現在では139人と大幅に減少し、高等裁判所8庁すべてに配属されていたものが現在はゼロ、地方裁判所本庁では50庁すべてに配属されていたものが30庁、支部では19庁から4庁に減少した。北海道内では札幌地裁が8人、旭川地裁、釧路地裁が各1人、函館は0人となっている。
  3.  最高裁判所は速記制度に代わるものとして録音反訳による方法で記録化することを進めてきた。その録音反訳は外部の反訳業者に委ねられている。
     録音反訳の問題点としては、訴訟当事者のプライバシーに関わるものが法律上の守秘義務のない業者に委託されることになること、法廷で証言を直接見聞きしない者による文字化のため証人の動作等、証人の証言態度までは補足できないこと、録音ミス、消失のリスクが常につきまとっていること、調書完成までに時間を要すること等があげられる。
  4.  裁判の審理を充実させるためには証人の動作等も含めて証言の正確な文字化が不可欠であるし、控訴審では裁判官が証人尋問に立ち会っているわけではないためなおさら正確な証人尋問調書が必要である。刑事裁判においても公判廷での証言が重視されるようになってきており、証言の正確な記録化は審理の充実を担保するものとして不可欠である。
     速記官による調書化はこの要請に応えるものであり、しかも極めて迅速に証言調書として完成する。
    このように速記官による速記による方法は、外部業者による録音反訳よりも明らかにメリットが大きい。

  5.  速記官制度の重要性は札幌高裁、地裁の運用からも明らかである。
    札幌高裁には速記官が配置されていないものの、高裁の審理において尋問が必要な場合には地裁に配置された速記官が対応している。地裁の刑事事件の否認事件や民事事件の尋問においても多くにおいて速記が利用されている。事実関係に争いのある事案、争点が複雑多岐にわたるような場合の証言について、その再現の正確性を裁判官も求めていることが推測され、それ故に現場の裁判官にとっても速記官による速記記録を信用していることが伺われる。
  6.  最高裁判所は、裁判員裁判の開始時期に音声認識システムを導入したが、正確性に問題があり、2022(令和4)年に開発を断念し、既にその利用も停止されている。将来的に音声認識による文字化が実用化されることがありうるとしても少なくとも現時点では音声認識システムの完成は見通せておらず、速記官による記録化に比肩しうるほどの正確性、再現性を有する方法はないと言わざるを得ない。
     以上より、最高裁判所が速記官を養成しないということは誤りであり、早期に速記官養成を再開すべきである。

           2024年(令和6年)3月11日
                札幌弁護士会
                      会長  清水 智

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