声明・意見書

最低賃金額の大幅引上げと全国一律最低賃金制度の実施及び中小零細企業への実効的な支援等を求める会長声明

  1.  現在、北海道の最低賃金額は、時間額960円です。この金額は前年から40円引き上げられたものの、全国加重平均である時間額1004円を大きく下回っています。この水準ではフルタイム(1日8時間、週40時間、月平均173.8時間)で働いても、各種控除前の名目給与金額で月収16万6848円、年収200万円程度にしかなりません。これでは労働者が賃金のみで生活を維持することは難しく、安定した生活を送ることはできません。
     独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査・報告等によると、フランス、ドイツ、イギリス、韓国等の諸外国と比べても日本の最低賃金は低額にとどまっています。
     また、2022年頃からの物価の高騰は現在も続いており、これは2023年度の消費者物価指数が前年度比で、「生鮮食品を除く総合指数」が2.8%も上昇しており、さらに、政府によって「電気・ガス価格激変緩和対策事業」がなされていたエネルギー関連の物価を除いた「生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数」では3.9%も上昇しているという形で表れています。
    厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)では、2024年3月の実質賃金(前年同月比)が24か月連続でマイナスになる等、物価の高騰に賃金の上昇が全く追いついていません。
    物価高から労働者の生活を守り、経済を活性化させるためにも、最低賃金額を大きく引き上げることが重要です。
  2.  当会は、これまでにも最低賃金額の引上げやそのための中小零細企業への実効的な支援等を求める会長声明を毎年発出し、地域別最低賃金について時間額1000円を超える大幅な引上げを求めてきたところです。
     もっとも、時間額1000円という金額であっても、1日8時間、週40時間(月平均173.8時間)働いたとしても、各種控除前の名目給与金額で月収約17万4000円程度、年収約209万円にしかならず、いわゆるワーキングプアと呼ばれる水準(年収200万円以下)をわずかに超える程度で、単身者にとってすら十分な額ではありませんし、子どもを育てていくためにはこの程度の金額では全く足りません。
     まして、現在の物価高騰のもとにおいては、時間額1000円という金額が労働者の生活を安定させ得るだけの金額でないこともまた明らかです。
     他方、労働組合が行なった最低生計費調査では、単身者が人間らしい生活を送るために必要な最低賃金額が全国のほとんどの地域で約1500円以上であることが示されています。
  3.  最低賃金の地域間格差が依然として大きく、格差が是正されていないことも重大な問題です。現在の地域別最低賃金額は、最も高い東京都で時間額1113円であるのに対し、最も低い岩手県では時間額893円であり、220円もの開きがあります。
      地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都道府県間でほとんど差がないことが明らかになっています。そもそも、最低賃金は、労働者が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されません。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、全国一律最低賃金制度を実現すべきです。
      この点、厚生労働省の中央最低賃金審議会は、昨年、地域別最低賃金の改定について、都道府県の経済実態に応じ、全都道府県をABCの3ランクに分けて目安区分を設け地域別最低賃金の引上げ金額の目安を答申しました。しかし、これでは現状では最低賃金額の低いCランクの地域の引上額を、現状では相対的には最低賃金額が高いAランクの地域の引上額より大幅に上回るものとするなど抜本的な方策でも採られない限り、地域間格差の迅速な解消は望めません。中央最低賃金審議会は、現行の目安制度が地域間格差を解消できなくなっていることを直視し、目安制度に代わる抜本的改善策として、最低賃金の全国一律制実現に向けた具体的な行動をなすべきです。
  4.  他方で、最低賃金の大幅引上げと全国一律最低賃金制度の実現のためには、中小零細企業への実効的な支援策の充実が不可欠です。
     最低賃金の引上げに伴う中小零細企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度により、支援を実施していますが、利用件数はごく少数であり、十分に機能していません。我が国の経済を支えている中小零細企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるよう、中小零細企業に対する社会保険料の事業主負担部分や消費税等の各種公租公課の減免、現行の「業務改善助成金」をさらに使いやすい制度に改善すること、申請しやすい新たな補助金の創設・支給を行うこと、原材料費等の価格上昇を取引に正しく反映させることを可能にするよう法規制すること、中小零細企業とその取引先企業との間での公正取引の確保等の充分な支援策を講じることが必要です。
     こうした中小零細企業への実効的な支援策と最低賃金額の引上げは、セットで行われなければならないものというべきです。
  5.  以上より、当会は、日本国憲法第25条の生存権の理念等に照らし、「労働者の生活の安定、労働力の質的向上」(最低賃金法第1条)といった最低賃金法の趣旨を実現するために、政府、中央最低賃金審議会、北海道地方最低賃金審議会及び北海道労働局長に対し、最低賃金額の地域間格差を解消し、北海道を含め全国の最低賃金額を、直ちに時間額1000円を超えるように大幅に引き上げること、そして、今後、時間額1500円以上を目指してさらなる引上げを図ることを求めます。また、政府においても、中小零細企業への実効的かつ充分な支援策を直ちに実施するとともに、早急に全国一律最低賃金の実現に向けた具体的な取り組みを開始するよう求めます。
  6.    2024年5月31日
                       札幌弁護士会
                          会長  松田 竜

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