特定少年の実名等を報道しないよう求める会長声明
2024年(令和6年)10月25日深夜に江別市内の公園において集団暴行による大学生の死亡事件が発生した。本件については、被疑者として成人2名、少年4名(以下、「少年ら」)が逮捕され、同年12月10日に17歳の少年と18歳の少年が、同月11日に16歳と18歳の少年が強盗致死の罪名で札幌家庭裁判所に送致され、今後は各少年についての少年審判が行われることが予定されている。
少年法は、第61条において、「氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができる記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載」すること(以下、「推知報道」という。)を禁止しているが、2021年(令和3年)5月に法改正が行われ(2022年(令和4年)4月1日施行)、改正法は18歳または19歳の少年を「特定少年」と定義したうえで、特定少年に限っては、少年審判において検察官送致決定(逆送決定)がなされ、その後に検察官が公判請求を行った場合には推知報道の禁止は適用されないとした(同法68条)。
少年法第61条が推知報道を禁止した趣旨は、少年の成長発達の観点から、事件に関わった少年や家族のプライバシーや名誉を保護し、少年の更生を図ることにある。推知報道による少年のプライバシーの侵害は、少年の成長発達を妨げるとともに、社会復帰、社会参加を行う際に致命的な不利益を与えるおそれが強い。推知報道により少年の適切な更生を妨げることは、結果として再非行を発生させることにつながりかねず、それにより社会的不安を増大させるという悪循環に陥らせ、社会公共の利益にも反するというべきである。特にインターネットが発展した近年において、少年の推知報道が行われた場合、その少年のプライバシー情報はインターネット上において半永久的に閲覧可能な状態に置かれるのであり、推知報道が少年の更生を阻害するおそれは極めて高い。
本改正法により、少年の推知報道の禁止が特定少年に限って一部解除されたが、少年の更生確保の必要性は、重大な犯罪行為を行い、逆送決定を受けた特定少年についても同様に当てはまるのであり、特定少年の推知報道が行われることによる不利益は十分に認識されるべきである。
参議院の法務委員会における本改正法に関する審議においても、「特定少年のとき犯した罪についての事件広報に当たっては、事案の内容や報道の公共性の程度には様々なものがあることや、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることをも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならない」との附帯決議がなされており、衆議院の法務委員会でも同様の附帯決議がなされているところである。
本件の送致罪名である強盗致死罪は、少年法20条2項が規定する原則逆送事件に該当し、裁判所は「犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるとき」を除いては、検察官送致の決定(以下、「逆送決定」)をしなければならず、検察官送致後には、検察官は原則として起訴しなければならないとされている(同法45条5項)。
そのため、本件においても、特定少年である18歳の少年2名について逆送決定がされ、検察官が起訴(公判請求)をした場合には、推知報道の禁止が適用されず、検察庁が報道機関に対し、少年2名の実名を公表する可能性がある。
しかしながら、推知報道の禁止が及ばないということが、少年の推知事項を公表、報道すべきということに結び付くものでは決してない。本年4月に旭川市の神居古潭で発生した女子高校生の殺人事件については、本年8月2日に公判請求があり、検察庁が報道機関に対し、19歳の少年の実名を公表したものの、各報道機関において実名等の報道の是非を検討した結果、実名等の報道を控えた報道機関も多く存在した。
改正法の推知報道の禁止の一部解除に対しては、当会は、2021年(令和3年)1月14日付「少年法適用年齢に関する法制審議会の答申内容に反対する会長声明」において反対の立場を表明しているところである。
少年の更生実現は社会全体の利益につながる重要な社会的な要請であり、報道機関に対しては、本件に関して検察庁が特定少年の実名を公表した場合であっても、特定少年の実名等の報道は厳に差し控えられるよう強く求める次第である。
2024(令和6)年12月27日
札幌弁護士会
会長 松田 竜