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2007年3月19日
札幌弁護士会会長 藤本 明
現在、衆議院において審議されている憲法改正の手続きを定める国民投票法案について、自民、公明両党の与党は、今国会中に同法案の成立を目指すことを表明している。
言うまでもなく、憲法改正国民投票は、主権者である国民が、国の最高法規である憲法のあり方に関して意見を表明するものであり、国民の基本的な権利行使に関わる重大な問題であるから、あくまでも国民主権の原理に立脚し、かつ国民がこの問題について十分かつ自由に意見の表明ができることが保障されなければならない。この点からすれば、与党案のみならず、民主党案のいずれについても、以下に指摘する重大な問題がある。
すなわち、最低投票率を定める規定を置いていないが、この規定が定められていないと、例えば、投票率40%の場合に投票権者の20%以上の賛成をもって国の最高法規である憲法の改正が実現されることになる。しかし、憲法が硬性憲法として憲法改正手続きに関し国民投票を自ら定めている趣旨や、憲法改正の重要性に鑑みれば、少なくとも投票権者の3分の2以上の最低投票率を定めるべきである。
また、公務員、教育者について、罰則規定は除かれたものの、依然「地位を利用」した運動を規制しているが、かかる規制は、公務員、教育者の意思表明自体を制約し、その萎縮効果も多大なものであるから、表現の自由に対する不当な規制である。さらに、改正案の発議について「内容において関連するごと」とされているが、投票行為を通じて国民の意思が正確に反映されるためには、一括投票ではなく、条文ごとの個別投票が原則とされなければならない。
加えて、周知期間について、憲法改正を発議した日から60日以後180日以内の日を投票日とするとされているが、憲法改正という国政の基本にかかわる重大な問題については、国民が十分に情報の提供を受け、議論し、運動し、意見交換する機会が保障されなければならず、そのような観点から、発議から投票までの期間は少なくとも1年以上とされるべきである。
そして、国会法を一部改正して憲法改正原案を提出できる常設機関として憲法審査会を設置するとされているが、硬性憲法の趣旨からして、かかる常設機関を国会内に設置することには問題がある。
以上で指摘しただけでも、与党法案、民主党案のいずれについても、重大な問題点が存することは明らかである。
従って、憲法改正国民投票法の制定にあたっては、国民主権の原理に則した形で慎重かつ十分な論議がなされるべきであり、いわんや拙速な審議のもとで法案の通過を図ることは到底許されない。
当会では、昨年6月9日にも憲法改正国民投票法案に反対する会長声明を発したが、与党及び民主党のその後の修正案についても、なお重大な問題点が存することや、国会の情勢に鑑みて、改めてここに憲法改正国民投票法案の制定に反対することを表明する。
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