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声明・意見書2006年度

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「道庁爆破事件」に関する再審請求棄却決定についての会長声明

2007年3月13日

札幌弁護士会会長 藤本 明

  1. 札幌地方裁判所は、本日、札幌拘置支所に在監中の大森勝久氏が請求した再審請求を棄却する決定を出した。
  2. 大森勝久氏は、 1976 (昭和 51 )年 3 月 2 日に発生したいわゆる道庁爆破事件の犯人として、爆発物取締罰則違反、殺人、殺人未遂で起訴されたが(死者 2 名、負傷者 81 名)、大森氏は、現在まで 31 年間にわたり、身柄を拘束されたまま一貫して犯行を否認している。
    大森氏の居室や所持品からは、爆薬製造の原料とされる除草剤はまったく発見されなかったにも拘わらず、死刑判決が確定した。
  3. 再審請求において、大森氏と弁護団は、原審判決で大森氏の除草剤所持の証拠とされた北海道警察本部犯罪科学研究所技術吏員による鑑定の実施が時間的に不可能であり、また、鑑定の対象物件に対する指紋採取や写真撮影と鑑定の実施とが整合しないことなどから、右鑑定は実際に鑑定を行ったとは思えない虚偽の内容であることを指摘し、新たな弁護側作成の鑑定書などを新証拠として提出した。
    裁判所は、上記鑑定人の尋問を実施したが、その証言内容は原審での証言内容と大きく齟齬し、また、新たな証言による鑑定手法もきわめて不合理なものであったという。
    右鑑定の信頼性は大きく揺らいだといわなければならない。
  4. 最高裁昭和 50 年 5 月 20 日決定(白鳥決定)は、再審における新証拠の明白性判断について、「もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべき」であると判示し、その判断に際しては「『疑わしいときは被告人の利益に』という刑事裁判における鉄則が適用されるものと解すべきである」とした。そして、最高裁昭和 51 年 10 月 12 日決定(財田川決定)によってその具体的判断方法が示された。これら白鳥・財田川決定によって再審の扉が大きく開かれたのである。ところが、今回の決定は、この刑事裁判の鉄則に反し、白鳥・財田川決定によって開かれた再審の扉を、再び閉ざすものである。
  5. 死刑事件は、特に誤判の危険が大きく、棄却決定による執行の危険性も存するため、一層慎重な判断が求められる。
    しかるに、この度の棄却決定は、大森氏と弁護団の提出した主張と新証拠を軽視し、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の無罪推定の基本原則を無視した判断である点において極めて問題が大きく、遺憾である。

大森氏と弁護団は直ちに即時抗告を行うとのことであるが、即時抗告審においては、上記白鳥・財田川決定の趣旨を踏まえ、再審の扉を開く判断をされるよう求めるものである。

以上

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