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声明・意見書2006年度

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割賦販売法の改正を求める意見書

経済産業省 大臣 甘利 明 殿

2007年3月12日

札幌弁護士会
会長 藤本 明

第1 意見の趣旨

不必要・過剰な住宅リフォームや次々販売などの悪質商法にクレジット契約が伴うことにより深刻な被害が多発している現状と,産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会の2006年6月7日付け報告書「クレジット取引に係る課題と論点整理について」(以下「報告書」という。)が「悪質な勧誘販売行為を助長するような不適正与信の排除」に向けたクレジット事業者の対応や法的責任を検討すべきとしたことを受け,次のとおり割賦販売法を速やかに改正することを求める。

  1. 割賦払い要件の撤廃
  2. クレジット契約に関する割賦払い等の要件を撤廃し,1回払いや2回払いの契約も適用対象とする。これに合わせて,割賦販売法の名称を「販売信用法」等の名称に変更する。

  3. 政令指定商品制の廃止
  4. クレジット契約に関する政令指定商品制を廃止し,原則としてすべての契約を適用対象とする。

  5. 抗弁対抗の効果拡大
  6. クレジット契約において,与信対象である取引の無効・取消・解除により購入者の代金支払債務が消滅したときは,購入者はクレジット会社に対し未払い金の支払を拒否できるだけでなく,既払い金の返還を請求できるものとする。

  7. 不適正与信防止義務の明文化
  8. (1) クレジット会社は,クレジット契約の与信対象となる加盟店の取引につき,その締結過程,内容,履行可能性などについて必要な調査を行い,不適正な取引にクレジット契約が使われることを防止すべき義務(不適正与信防止義務)を負うことを定める。

    (2) (1)の義務を怠った場合について,行政処分の対象とするとともに,請求権制限や損害賠償義務といった民事的効果を定める。

  9. 過剰与信規制の徹底
  10. (1) 自社式割賦販売業者及びクレジット会社に対して,購入者又は保証人の支払能力を超えるクレジット契約を,具体的な基準を設けて禁止する。

    (2) (1)の禁止に違反した場合について,行政処分の対象とするとともに,請求権制限の民事的効果を定める。

    (3) 個人信用情報機関の利用義務を規定し,与信調査記録の作成・保存・開示義務を定める。

  11. 個品割賦購入あっせんに対する規制
  12. クレジット契約のうち参入規制がされていない個品割賦購入あっせんについて,これを登録制とするとともに,クレジット会社がクレジット契約の内容を記載した書面の交付義務を負うことを定める。

第2 意見の理由

  1. はじめに
  2. 近時,クレジット会社が悪質な販売業者の行う違法・不当な商法にクレジットを利用させるという形で,これを助長していることが大きく社会問題化しており,こうした被害・トラブルの防止と救済手段の拡充が急務となっている。

    そして,クレジット契約を規制している割賦販売法を所管する経済産業省においても,産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会が割賦販売法等のクレジット取引に関する諸制度の再検討を行って報告書を作成し,その全面的な見直しの必要性を指摘するに至った。現在は,見直しの具体的な内容が検討されている段階である。

    以下に述べるように,現行の割賦販売法は,クレジットを用いた悪質商法による被害・トラブルを防止し,救済するための規定が極めて不十分であり,この機会に早急かつ抜本的に改正すべきである。

  3. クレジットトラブルの急増
  4. (1) 2000年(平成12年)度に国民生活センター及び全国の消費生活センターに寄せられた消費生活相談のうち実に34%(144,684件)が,契約代金の支払にクレジットを利用している。このクレジットを利用した契約に関する相談のうち,大半は商品の販売業者や役務の提供業者(以下単に「販売業者」という。)の売り方・セールストークなどの問題商法に対する苦情である(国民生活センターの2002年4月24日付け「個品割賦購入あっせん契約におけるクレジット会社の加盟店問題」と題する報告書)。そして,2003年(平成15年)度におけるクレジットを利用した契約に関する消費生活相談は172,429件と一層増加している(同センターの2005年3月4日付け「クレジット会社の与信問題」と題する報告書)。

    (2) 近時は,悪質な訪問販売業者が高齢者や知的障害者を狙って住宅リフォーム工事や布団,呉服の購入などを次々と契約させる事例が続発しており,中には不必要な工事や商品まで契約させたり,不当に高額な対価を支払わせるといった事例も少なくない。悪質販売業者は,特に高齢者など判断能力が不十分な者を狙い,代金を即時に支払えない購入者にはクレジットを利用させ,クレジット会社からの立替金によって代金を取得している。かかるクレジットの申込みを受けたクレジット会社は,販売行為の違法・不当性を看過し,かつ,購入者の支払能力を十分考慮することなく,次々とクレジット契約を行っている。その結果,新築費用を上回る何千万円にも及ぶ訪問販売リフォームを契約させられ,支払能力をはるかに超える支払額のクレジット多重債務を負うといった深刻な被害事例が多発しているのである。
    例えば,埼玉県富士見市の80歳と78歳の姉妹が,2005年(平成17年)春までの3年間で,少なくとも16業者と合計5000万円以上の住宅リフォーム契約を締結させられた事案では,ほとんどが不必要なリフォーム工事で,適正価格の10~20倍の代金を支払った工事もあった。約4000万円あったとされる姉妹の預金はすべて引き出されていたうえに,工事代金の一部について大手クレジット会社4社がクレジット契約を締結しており,そのうちの2社が姉妹宅の競売申立まで行った(2005年5月5日付け毎日新聞記事,同月21日付け朝日新聞記事)。

    (3) 北海道内においても,2005年秋以降だけで,以下のようなクレジットを利用した事例が次々と発覚している。

    ① ブルームーン事件
    2006年2月末,有限会社ブルームーンファインアート(以下「ブルームーン」という。)が札幌地方裁判所に対し破産申立を行ったが,同社によってクレジット会社から立替金を詐取するために大掛かりな名義借りが行われていたことが発覚した。
    ブルームーンは「ラッセン」等の絵画を販売する自称画商であったが,名義借りを行うにあたって,同社は,「画商は,画商名義でラッセンの絵画を卸元から仕入れることができない。そこであなたの名義で購入したことにして欲しい。」と持ち掛けていた。また,絵画を実際に購入させておきながら絵画を引き渡していない事例や,同社が購入者から絵画をレンタルしたことにして購入者に絵画を引き渡さない事例,さらには同社が消費者の全く認識のないところで申込書を偽造してクレジットを組んでいた事例も散見された。そして,いずれの事案においても契約書等の署名や住所等の記載は,同社の従業員によってなされているものが大多数であった。
    当会では,同年3月に被害者説明会を開催し,被害状況を調査したところ,被害者400名以上,被害総額5億円以上,クレジット会社も12社にわたっており(但し,5社で8割以上を占めている。),被害者の中心は20代,30代の若者であった。
    この事件では,絵画は1点50万円から150万円の価格で販売されたことになっており,ブルームーンが設立された1999年4月以降,同社が販売したとされる絵画は少なく見積もっても2000点を超える。これだけの絵画(主にはラッセン)が北海道で大量に売却されたとされること自体,不自然極まりなく,また,同社の代表者等,同社の設立に関与した者の年齢はいずれも30歳前後であり,絵画販売に関しては何らの実績もない者であった。
    本件は,クレジット会社の極めて簡易かつ形式化したクレジット契約の審査と,加盟店に対する十分な管理がなされないことに乗じて,消費者を利用してクレジット会社から立替金を騙し取る詐欺集団的な販売店が発生し,消費者がこれに巻き込まれていく危険性を示している。

    ② 岸田呉服店事件
    2006年2月,北海道室蘭市の岸田呉服店におけるクレジット不正使用事件が発覚し,同年3月,当会にて相談会を開催した。被害者数は把握できているだけで40名を超えており,被害総額は6000万円以上に及んでいる。
    調査の結果,岸田呉服店経営者から「利息が安くなるので,他の信販会社に切り替えないか。」などと持ちかけられ,二重にクレジットを組まれた事例,「クレジットを一本化しましょう。」などと言われて,それに従ったつもりでいたが,実際には一本化されておらず,二重にクレジットが組まれていた事例,「資金繰りが苦しいので,名義を貸してくれ。」などと持ちかけられ,言われるがままに名義貸しをした事例,名義を勝手に使われた名義冒用の事例などがあった。また,同店経営者からは,消費者に対して,クレジット会社からの電話確認に対し「はい。」と答えるように指示がなされていた。
    被害者のほとんどが高齢者で,岸田呉服店と長年の付き合いがあり,経営者を信頼していたがために関わってしまった者も多かった。また,そもそもクレジットの仕組みを理解していない者が多く,かかる無知に乗じたものと思われる。

    ③ クレジットによる次々商法被害
    当会では,2005年9月に高齢者の次々被害に対する面談相談,10月に過剰与信に関する電話相談,12月には高齢者被害に関する電話相談をそれぞれ実施した。計27件という多数の事例が寄せられたが,ほとんどがクレジット絡みの被害相談であった。中には,月収約15万円の77歳の女性に対し,宝石,呉服等を次々に売り付けて合計600万円を超えるクレジットが組まれ,月の支払額が20万円近くに達する月もある事例(支払期間のおよそ2分の1が10万円を超えている。)など,生活そのものを破壊してしまうような事例も多々あった。
    2006年9月にも,特に被害が大きいと思われる呉服,アクセサリーに関する次々商法に関する電話相談を実施したところ,計24件の被害相談が寄せられたが,そのほとんどがクレジットを伴うものであった。
    これらの相談によっても高齢者を中心に多額のクレジットが組まされている実態が明らかとなっており,クレジットの支払額が,唯一の収入であり,生活を支えるはずの年金額を超えていることも多々あり,深刻な問題が起きている。また,成人に達したばかりの若者も狙われる傾向が伺える。
    こうした中で,同年9月,株式会社宝石貴金属の店ありもと(以下「ありもと」という。)及びこれを加盟店とするクレジット会社に対して損害賠償請求訴訟が提起され,その事実が報道されるや否やクレジット会社が次々に「ありもと」との加盟店契約を打ち切り,その結果,同社は破産するに至った。この事例も,次々販売のような商法がクレジットによって支えられている構図を浮き彫りにしている。

  5. 被害発生の背景と割賦販売法改正の必要性
  6. (1) そもそも,販売業者である加盟店自身は購入者から代金を回収する必要がなく,クレジット会社からその立替払いを受けることができるクレジット制度は,違法・不当な販売行為や,加盟店が消費者の名義を借りてクレジット会社から金銭を騙し取るなどの不正行為を生み出しやすい構造的な危険性がある。

    (2) また,クレジットトラブルが増加している背景には,クレジット業界において激しい与信競争下にあるクレジット会社が,少しでも多くの加盟店と提携し,少しでも多くの契約を獲得して会社の収益につなげようとする結果,加盟店や個々の契約に対する審査・調査が十分になされていないという実態がある。そうした実態は,国民生活センターの2002年4月24日付け前掲報告書においても,「クレジット会社は,販売業者と契約(加盟店契約)して消費者にクレジットを提供するが,相手が問題商法の業者であっても契約していて,それが既述の消費者被害を発生させているのではないかと推測される。クレジット会社が問題商法の業者を裏で支えているのではないか,という疑念」があると指摘されている。

    (3) これまで,旧通商産業省及び経済産業省はクレジット会社に対し,クレジット業界団体を通じた通達や要請の形で指導を重ねてきたが,前述のとおりクレジットトラブルはむしろ増加し,深刻化する傾向にある。

    (4) こうした現実は,現行法による規制や監督官庁による指導が,クレジットを利用した違法・不当な商法に対する有効な対策となっていないことを端的に示している。クレジットトラブルを実効的に防止し,被害を救済するための方策を講じることは急務であり,そのためには割賦販売法について,以下のような法改正を早急に行う必要がある。

  7. 割賦払い要件の撤廃
  8. (1) 現行割賦販売法が規制対象としているクレジット取引は,「2月以上の期間にわたり,かつ,3回以上に分割して」支払う割賦払い,又は,「あらかじめ定められた方法により算定した金額」を支払うリボルビング払いのいずれかに限られている。

    (2) しかし,現実には,全クレジット契約のうち,現行法の割賦払い又はリボルビング払いの要件に該当しないものが実に7割強を占めている。しかも,近時の悪質商法においては1回払い,2回払いのクレジット契約を利用する事例が増加している。次々販売被害で,年金収入のみの購入者に1回払いや,ボーナス時期の2回払いが多用されていたり,クレジットの名義借り事例でも,半年後,1年後といった期間の1回払い,2回払いの契約が多く使われている事例がある。

    (3) そもそも,クレジット契約が有する代金支払が購入後になるという性格や,販売契約と与信契約の密接不可分性といった特徴に鑑みた規制を行うにあたり,支払回数によって適用の有無を区別することは合理性を欠く。また,このような「法の隙間」を狙った悪質商法の出現を引き続き許すことにもなる。

    (4) したがって,クレジット契約に関しては,現行法のような要件を撤廃し,一括払い・分割払い・リボルビング払い等の方式に関係なく,支払方法が後払いであれば適用対象とすべきである。

  9. 政令指定商品制の廃止
  10. (1) さらに,現行割賦販売法は政令指定商品制を採用しているため,同法の規制対象となるのは政令で定めた指定商品・指定権利・指定役務の取引に関するクレジット契約に限られている。

    (2) そのため,取引対象が指定商品等に含まれない事例に関するクレジットトラブルが後を絶たず,その都度,被害の後追い的に追加指定が繰り返されてきている。しかし,これでは今後も,指定された以外の品目についてのトラブルが続くことは必至である。

    (3) 先に割賦払い要件の撤廃について述べたと同様の理由で,そもそもクレジット契約の規制において,取引対象品目により適用の有無に差を設けることには合理性がない。諸外国の消費者信用法を見ても,取引対象品目によって適用範囲を限定する制度を採用する例は見られない。

    (4) したがって,クレジット契約に関する現行法の指定商品制は廃止すべきであり,仮に法規制が不適切な取引品目があるとすれば逆に適用除外品目(ネガティブリスト)として規定すべきである。

  11. 抗弁対抗の効果拡大
  12. (1) 現行割賦販売法30条の4は,「抗弁の対抗」の効果として,購入者のクレジット会社に対する未払い金の支払拒否についてのみ規定し,既払い金の返還については規定していない。

    (2) しかし,支払途中のどの段階で与信対象の取引に関する問題が発覚し,抗弁主張を行ったかによって,救済される範囲が異なるのは合理性を欠いている。現に,イギリス,フランス等の主要国の消費者信用法は,クレジット会社が既払い金の返還義務を負うこと(販売業者との共同責任又は与信契約の効力否定)を定めている。

    (3) そして,何よりも,現行法における「抗弁の対抗」の効果が,購入者が問題に気づいて抗弁主張をした以後の未払い金の支払拒否に止まっている結果,クレジット会社にとっては,仮に加盟店の販売方法に問題があることを察知しても,直ちに加盟店契約を打ち切る等の対処をするより,加盟店に経営を継続させる方が経済的に有利となっている。そのため,悪質加盟店が引き続きクレジットを利用しながら営業を継続して,さらに被害が拡大することを防ぎ得ないという実態がある。

    (4) したがって,被害救済はもちろんのこと,クレジット会社の不適正与信防止を徹底するうえにおいても,与信対象である取引の無効・取消・解除により購入者の代金支払債務が消滅したときは,購入者はクレジット会社に対し未払い金の支払を拒否できるだけでなく,既払い金の返還を請求できるものとすべきである。

  13. 不適正与信防止義務の明文化
  14. (1) 現行割賦販売法には,クレジット会社の不適正与信防止(加盟店管理)に関する明文規定がない。
    それゆえ,クレジットを利用した悪質商法や名義借り等のクレジットの不正使用が繰り返されていても,不適正与信防止に関するクレジット会社の法的責任が不明確であるため,クレジット会社による審査・管理の実は上がっておらず,結果として被害・トラブルの発生を防止できていない。

    (2) また,前述のとおり,旧通商産業省及び経済産業省は過去幾たびもクレジット業界を通じた通達や要請による指導を重ねてきたが,それらも功を奏していないのみならず,クレジット業界団体を通じた指導では,そうした団体に所属せずにクレジット業務を行っている貸金業者などに対しては十分に周知することすらできない。

    (3) 先にも述べたように,クレジット制度においては販売契約と与信契約が密接・不可分に作用しており,クレジット会社は,提携している加盟店の営業活動によってクレジット契約を獲得する構造となっている。こうした構造から利益を得る立場のクレジット会社は,加盟店の勧誘・販売等の行為や取引内容,履行の確実性を審査・管理するなどして,不適正な取引にクレジット契約が使われることを防止する義務があるものとして,そのことを法律上に明記すべきである。
    この点,ダンシング事件に関する大阪高等裁判所平成16年4月16日判決も,「信販会社が継続的に提供するクレジットシステムにより悪質販売業者の不適正な販売行為が助長されている関係がある」「こうした信販のシステムが孕む構造的な危険(病理現象)については,システムの開設者である信販会社が信販のシステムが悪用されないよう加盟店の調査・監督義務を徹底することにより対処することが期待されている」と判示している。さらには,同事件に関する大津地方裁判所平成16年12月20日判決や岡山地方裁判所平成16年12月21日判決,ジェイメディア事件に関する仙台地方裁判所平成17年4月28日判決などにおいても,加盟店審査・管理義務が肯定されている。

    (4) そして,クレジット会社の不適正与信防止義務の実効性を確保するために,これを怠った場合には,改善指示や業務停止等の行政処分の対象とすることに加え,購入者に対する請求権の行使が制限されるとともに,損害賠償責任を負担することを内容とする民事的効果を規定すべきである。

  15. 過剰与信規制の徹底
  16. (1) 現行割賦販売法38条は,「割賦販売業者等は,購入者の支払能力を超えると認められる割賦販売等を行わないように努めなければならない」と規定してはいるが,違反に対する制裁を伴わない訓示規定に止まっているため,全く実効性がない。

    (2) 言うまでもなく,近年の多重債務者の増加は,与信業者が債務者の支払能力を十分考慮することなく与信を行う結果としての「過剰与信」によるところが大きい。例えば,わずかな年金収入しかない高齢者や,安定した収入のない若者らにクレジットで高額な商品を販売して支払困難に陥らせる事例や,すでに多重な債務を負担している者にさらに次々と与信を重ね,雪だるま式に債務額を増大させる事例が蔓延している。
    多重債務の問題は,借り手の自覚を唱えるだけで解決し得るようなものではなく,「貸し手の注意」を義務づけない限りはおよそ解決できない性質のものである。

    (3) したがって,クレジット契約に関しても早急に実効性のある過剰与信規制を行う必要があり,クレジット会社に対し,購入者又は保証人の支払能力を超えるクレジット契約の締結を禁止すべきである。

    (4) そして,「支払能力を超える」か否かの具体的判断基準としては,2006年(平成18年)12月13日に成立した「貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律」により題名も含めて改正された貸金業法13条の2が,貸金業者に対し総借入残高が年収等の3分の1を超えることとなる貸付けを原則禁止していることなどから,「既存の金銭貸付け及びクレジット等による債務も含めた総債務残高が年収額の3分の1を超える」ことを原則的基準とすることが考えられる。但し,支払が可能と認めるべき合理的根拠がある場合には,例外を許容する余地があろう。

    (5) さらに,こうした過剰与信規制を実効化するためには,クレジット会社や自社式割賦販売業者による違反があった場合には,改善指示や業務停止等の行政処分の対象とするのみならず,購入者等に対する請求権を制限する規定を設けるべきである。

    (6) 以上に関連して,クレジット会社に対しては,購入者及び保証人からの聴取とともに個人信用情報機関の利用によって,支払能力等を調査することを義務づける必要がある。
    さらには,そうした調査の結果とクレジット契約を行うことが可能であると判断した理由を記載した与信調査記録の作成を義務づけ,一定期間保存させるとともに,購入者等からその開示を求められたときにはこれに応じる義務を課すべきである。

  17. 個品割賦購入あっせんに対する規制
  18. (1)  現行法において,個品割賦購入あっせん取引は,クレジットカード取引(総合割賦購入あっせん取引等)のような登録制(法31条)の対象となっておらず,参入規制がされていない。そのため,同法に違反する事実があっても行政上の措置や,その前提となる調査すらも十分に行えない状況にある。
    不適正与信の防止に向けたクレジット会社の責任を明確化するためにも,クレジット契約を締結したときには,クレジット会社と加盟店が共同して,購入者に対し与信に関する事項を記載した書面を交付すべきことを義務づけるべきである。

    (2) また,現行法では,個品割賦購入あっせん取引に関して,クレジット会社から購入者に対する書面の交付義務は規定されていない。加盟店が,与信に関する事項も含めた書面の交付義務を負うに止まっている(法30条の2第5項,30条の2の2第1項)。
    不適正与信の防止に向けたクレジット会社の責任を明確化するためにも,クレジット契約を締結したときには,クレジット会社と加盟店が共同して,購入者に対し与信に関する事項を記載した書面を交付すべきことを義務づけるべきである。

以上

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