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声明・意見書2008年度

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「被害者等の少年審判傍聴」を認める少年法「改正」法案に反対する会長声明

2008年4月15日

札幌弁護士会 会長 三木正俊

 今、国会では、被害者や遺族(以下「被害者等」という)の少年審判傍聴を認める少年法「改正」法案の審議がはじまろうとしている。
 この法案は、少年による殺人など一定の重大犯罪の場合、被害者等が少年審判の傍聴を申し出たとき、家庭裁判所が裁量により認める制度を新設するものである。しかし、これは、以下のとおり、少年の健全育成を目的とする少年法の理念に反するだけでなく、被害者等が求める真実発見、真相究明にも悪影響をおよぼす可能性が高く、当会は強く反対する。

 今回の改正理由については、「犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図るため」とされている。
  なるほど、被害者等が、なぜ事件が起こったのか、加害少年はどんな人間なのか、どのように処分が決められていくのか、を知りたいと思うのはもっともなことである。もし、それを審判傍聴で達成しようとするためには、少年が審判において、自分の言葉で事実と心情を語ることができなければならない。ところが、重大な犯罪行為に及んだ少年は、親からの虐待など不適切な養育を受け、心が深く傷つき、精神的に未熟で社会的経験の乏しい少年であることが多い。しかも、少年審判が行われる時期は、犯罪発生後、それほど時間が経っておらず、少年が事件と向き合い、被害者等のことに思いを致し、内省を深めることが十分にできず、被害者等にとっても心理的な動揺が収まっていない時期なのである。
 また、一般にはあまり知られていないが、家庭裁判所の少年審判廷は、地方裁判所の刑事事件の法廷とは違い、裁判官や調査官および付添人が少年に語りかけることができるようにとても狭い構造になっている。そのため、被害者等の審判傍聴が認められたとするならば、被害者等と少年は至近距離に位置せざるを得ず、審判廷の緊張度が極度に高まることを避けることはできない。
 そのような状況では、少年は、心理的に萎縮し、被害者を意識するあまり、事件の真相や率直な気持ちを語ることがほとんどできなくなることが懸念される。

 このように、審判傍聴は、被害者等が求める真実解明が達成できなくなるという意味で、犯罪被害者の権利利益の保護を図ることにはならず、非行の原因を十分掘り下げ、適切な処遇選択が困難になるという意味で、少年審判の本質を損なう結果をもたらすのである。
 「犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図るため」というのであれば、審判傍聴制度を新設するよりも、現行法にある被害者等による記録の閲覧・謄写(少年法5条の2)、被害者等の意見聴取(少年法9条の2)、審判の結果通知(少年法31条の2)の制度を専門の調査官によって丁寧に運用するとともに、犯罪被害者に対する経済的、精神的支援の制度を拡充することが急がれなければならない。

 これまで、少年法の理念と犯罪被害者の権利は対立する関係のように受け取られる傾向が
あった。しかし、少年は、将来必ず被害者のいる社会に戻ってくるのであり、かかる少年の改善更生のため、そして犯罪被害者の悲しみの連鎖と憎しみの増幅をできるだけ避けるため、われわれは、少年法の理念と犯罪被害者の権利がより充実したものになるように、議論を重ね、知恵を絞って、バランスのよい制度を考える必要がある。
 そのためには、少年審判や処遇に深く携わってきた裁判官・調査官・弁護士や処遇の現場の意見および犯罪被害者の声を広く聴取して慎重かつ十分な議論をしなければならない。しかし、今回の法案は、そのようなプロセスを経ておらず、あまりにも拙速であり、将来に禍根を残すことは必至である。

 以上のことから、少年の保護育成のためにならず、しかも被害者等が願う真実解明の求めにも応えられるとはいえない今回の「改正」案に強く反対するものである。

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