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近年、ガス湯沸器一酸化炭素中毒事故、シュレッダーによる指切断事故、こんにゃくゼリー誤飲による窒息事故など製品事故が多発し、また住宅の耐震構造偽装が発覚するなど、製品・住宅の安全性が大きな問題となった。昨年には一連の食品偽装表示事件が発覚し、「ミートホープ」や「白い恋人」といった北海道に関わる事件も発生し、食品の表示に関する信頼が損なわれ、さらに、本年は、輸入冷凍餃子への毒物混入事件によって食品の安全性に対する社会的不安が広がった。のみならず取引分野においても年々巧妙化する悪質商法、英会話教室NOVAや木の城たいせつの倒産による消費者トラブルなど、多種多様な消費者被害が次々と発生ないし顕在化してきている。これに対し、現在の縦割行政は、それぞれの管轄と法的手続が複雑に分岐・錯綜しているため、これらの被害発生の防止及び被害救済の面において十分に機能しているとはいえない。
このような状況下において、福田康夫内閣総理大臣は、消費者・生活者重視への政策転換、消費者行政の一元化・強化の方針を打ち出した。これを受け、自民党消費者問題調査会は、本年3月19日、「産業育成官庁から独立し、消費者・生活者目線で他省庁に司令を出す『消費者庁』の新設(強い監督権限)」、「地方消費者行政の充実」、「違法収益のはく奪」、「相談窓口の一元化」などを骨子とする最終とりまとめを行った。また、民主党も消費者保護官(オンブズマン)構想を提言するなど、野党各党も検討を進めている。
そして、本年4月23日、福田総理大臣は、政府が設置した消費者行政推進会議において、「消費者を主役とする『政府の舵取り役』としての消費者庁(仮称)を来年度から発足させる」との意向を明らかにした。これは、消費者に身近な問題を扱う法律は消費者庁に移管することや、地方消費者行政を強化することなど、消費者・生活者重視の施策を目指すものであり、当会はこの基本的な方向性を評価するものである。
当会としては、これまでも北海道特有の問題点を指摘し、地方消費者行政の推進を訴えてきたところであるが、「消費者庁」(仮称)の実現にあたっては、地方における消費者被害の現実を踏まえたうえで、相談体制の更なる強化・改善を強く求めるものである。
すなわち、当会は、2005年4月には、北海道が打ち出した石狩支庁を除く各13支庁における「支庁相談窓口」の廃止に反対し、各界からも同様の声が上がった結果、北海道はこれに代えて「消費生活相談推進員」を設置して、事実上、各支庁における相談窓口を存続させた。そして、2007年12月、北海道がこの「消費生活相談推進員」を廃止する方針(支庁相談窓口の全廃)を打ち出したことから、これに対しても、当会は、本年3月、北海道の広域性や市町村のみによる相談体制の整備には限界があることに鑑み、各支庁における相談体制の存続及び強化を求めたところである。さらに、本年5月10日には、消費者関係団体の後援のもと、「消費者行政の一元化と地方消費生活相談のあり方」と題するシンポジウムを開催し、消費者庁構想の下における地方相談体制のあるべき姿について、北海道の実情も踏まえた検討を行った。
このように、当会は地方消費生活相談体制の維持・強化の必要性について訴えてきたが、北海道内の各市町村においては、予算・人員の制約から一般の行政担当者が兼任する相談窓口も多く、知識やノウハウの蓄積、経験を重ねた適切な対処が困難な状況にある。そのため、地方在住の消費者が適切・迅速な助言や助力を受けられず、高齢者の訪問販売被害、農村部を狙った電話リース商法など、深刻な被害が後を絶たない。
消費者の権利擁護の理念に立ち、消費者が主役の消費者行政を実現するためには、市町村や北海道における支庁など消費者に身近な地方相談窓口において、人的及び物的体制を十分に確保し、適切な相談と迅速なあっせん解決が促進されなければならず、とりわけ北海道が果たすべき役割と責任は大きい。また、消費者庁は、地方における消費生活相談その他の地方消費者行政の強化に資するとともに、全国各地から寄せられる被害情報を集約・分析し、被害情報を地方に周知するなどの支援を担わなければならない。
よって、当会は、消費者庁の設立に向け、次のような視点に基づいて、制度を創設するように強く求めるものである。
2008年5月22日
札幌弁護士会 会長 三木正俊
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