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現在、我が国では働いても人間らしい生活を営むに足る収入を得られない「ワーキングプア」が急増し、年収200万円以下で働く民間企業の労働者は1000万人を超えるに至っているが、この多くは派遣労働者、有期雇用労働者といった非正規労働者である。かかる現象は、政府が構造改革政策の下で進めてきた労働分野における規制緩和の弊害といわざるを得ない。
そして、非正規労働の典型である派遣労働者は、正規労働者との労働条件格差、長時間労働、低賃金労働、賃金不払い、派遣元事業主のマージン搾取、禁止業務への派遣、労働災害の頻発等、極めて過酷で不安定な状況におかれている。また、いわば「雇用の調整弁」とされて、常に雇い止めや解雇による失業の不安にさらされ、人間としての誇りや尊厳すら損なわれている。なかでも日雇派遣事業においては、法令遵守がないがしろにされ、日雇派遣労働者の人権侵害が横行している。同業界大手の株式会社グッドウィルや株式会社フルキャストの相次ぐ不祥事は、かかる就業実態の象徴であるといえる。
かかる派遣労働者の劣悪な就業状況については、労働者が人間らしく働くための労働のルールが全く無視されていることに起因する。個人の尊厳尊重及び幸福を追求する権利の保障(憲法13条)、法の下の平等原理(憲法14条)、勤労の権利の保障(憲法27条)等の憲法の諸規定に照らすならば、すべての人に、公正かつ良好な労働条件を享受しつつ人間らしく働く権利が保障されているというべきであり、健康で文化的な最低限度の生活すら営むことのできない労働者を放置することは許されない(憲法25条)。
また、派遣労働者全体の約62%(約99万8200人)を女性が占めている実情からみれば、この問題は女性労働者の貧困の問題でもあるといえる。以前から、多くの女性労働者は派遣やパートなど不安定な雇用状況のもとに置かれていたが、世帯収入の主たる担い手が配偶者である男性であったため、この問題が放置されてきたといわざるを得ない。男女問わず労働者の雇用状況が悪化している現状にあるが、女性労働者ないし母子家庭の貧困の問題という視点からも、この問題を早急に改善する必要がある。
この点、本年11月4日、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「本改正案」という)が閣議決定され、臨時国会に上程された。しかし、今回の改正案は、日雇い派遣について全面的に禁止するものではないこと、派遣料金のマージン率について上限規制を設けていないこと、不安定な雇用形態である登録型派遣を禁止せずに常用雇用を努力義務に止めていること、派遣先の同種労働者との均等待遇を義務付けていないこと、等、抜本改正には程遠い内容である。のみならず、正規労働者の常用型派遣への置き換えを進行させるなど、労働者の権利擁護に逆行する規制緩和をも内容としている。
そこで、当会は、非正規雇用の増大に歯止めをかけワーキングプアを解消するため、本改正案に反対するとともに、国会に対し、労働者派遣法を以下のような方向で抜本的に改正することを求める。
2008年11月13日
札幌弁護士会 会長 三木正俊
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