区域外避難者に対する借り上げ住宅の供与打ち切りに反対する会長声明
福島第一原子力発電所事故により避難指示を受けずに避難した区域外避難者(以下「区域外避難者」という)に対する災害救助法に基づく避難先の住宅供与(一定額の家賃補助。以下「借り上げ住宅」という)は、1年ごとに期限が延長されてきたところ、本年6月15日、福島県は、区域外避難者についての借り上げ住宅の供与を、2016年度で終える方針を決定した。
これにより、区域外避難者への借り上げ住宅の供与は、2017年3月末以降は延長されず打ち切られることになる。今もなお管内に区域内避難者を多く抱える当会としては、このような方針を到底容認できない。
区域外避難者は、政府による避難指示区域外から避難したということで「自主的避難者」と呼ばれることもあるが、いうまでもなく自ら望んで避難生活を選んだ者はいないのであって、放射能による健康被害に不安を持ち、避難生活を選択せざるを得なかったという点では、本来、避難指示区域からの避難者と何ら変わるものではない。
そして、区域外避難者の多くは、災害救助法に基づく借り上げ住宅の供与を各自治体から受けて生活している。北海道内にも、福島県内からの避難者は合計1554名いるとされる(北海道発表、2015年6月11日現在)ところ、その多くは区域外避難者である。
区域外避難者の中には、仕事を失った者、子どもを転校させた者、家族と別れて生活している者などが多数存在し、その精神的・経済的負担は計り知れない。しかしながら、東京電力が行っている金銭賠償は至って不十分であり、生活費増加分や交通費すら十分に支払われていないのが現状である。そのような中で、災害救助法に基づく借り上げ住宅の供与は、区域外避難者が避難先で生活する上での最も重要な基盤となる住居を確保するものであり、まさに避難を継続するための命綱ともいうべきものである。もし借り上げ住宅の供与が打ち切られれば、多くの区域外避難者にとって、避難を継続することは極めて困難となる。
2012年6月21日に成立した子ども被災者支援法は、放射性物質の健康影響について科学的に十分に解明されていないことから、避難という選択も十分に尊重されるべきものとしている(同法第1条、第2条)ところ、福島県内の除染作業や、放射性物質の健康影響に対する科学的な解明はいまだ十分とはいえない。そのような中にあって、借り上げ住宅の供与を中止することは、同法の理念にもとるのみならず、区域外避難者の自己決定権(憲法第13条)をも実質的に侵害するものであり、到底許されるものではない。
よって、当会は、福島県に対し、区域外避難者への借り上げ住宅の供与を打ち切るという方針を直ちに撤回し、長期の借り上げ住宅供与期間延長を求めるとともに、改めて国に対して、住まい、就労、行政サービス等を含めた様々な面で、避難者の自己決定権が十分に保障される総合的な支援を実現する制度を講ずることを求めるものである。
2015年(平成27年)8月11日
札幌弁護士会
会長 太田 賢二