声明・意見書

最低賃金の大幅引き上げと審理の公開推進を求める会長声明

  1.  昨年における中央最低賃金審議会の最低賃金引上げ目安額が24円にとどまったことから,当会は,昨年8月4日,この金額が僅少に過ぎるとして,「最低賃金の大幅引き上げを求める会長声明」を発し,北海道地方最低賃金審議会に対して北海道の最低賃金を時間額811円以上の答申とすること,北海道労働局に対して最低賃金の大幅な引き上げを行うこと,を求めました。しかし,残念なことに,同答申は786円にとどまり,同年10月1日以降の最低賃金は同金額に止まる結果となりました。
  2.  我が国では,非正規雇用労働者の割合が4割に達し,しかも家計の補助ではなく当該収入で家計を維持している方が大きく増加しています。そして,かかる非正規労働者の多くが最低賃金周辺の賃金で稼働しているという実情があります。すなわち,最低賃金額が低廉であることが,貧困や格差を招来する直接的要因となり,我が国の相対的貧困率は依然として15.6%という高い水準で推移し,深刻な社会問題となっています。貧困状態からの脱出のためには,最低賃金の迅速かつ大幅な引き上げが必要不可欠です。
  3.  最低賃金の地域間格差が大きいことも看過できません。前述した北海道の最低賃金は786円であり,最も高い東京都の最低賃金からは146円も低額です。さらに最も低い宮崎県,沖縄県となると,714円にとどまり,東京都との差額は218円にも及びます。このような地域間格差は年々増大し,この10年で約2倍に達しています。地方では賃金が高い都市部での就労を求めて地元を離れてしまう現象も見られ,労働力不足が深刻化しています。地域経済の活性化のためにも,最低賃金の地域間格差の縮小は喫緊の課題といえましょう。
  4.  そもそも,最低賃金制度は,「賃金の低廉な労働者について,賃金の最低額を保障することにより,労働条件の改善を図り,もって,労働者の生活の安定,労働力の質的向上」等を目的としています(最低賃金法第1条)。前述したような最低賃金周辺の賃金で生計を立てている労働者の方々が相当数を占める我が国の現状からすれば,この法の趣旨が十全に満たされているものとは到底評価できず,もとより,日本国憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(25条)が実現されているかも極めて疑わしいと言わざるを得ません。
  5.  2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」は,2020年までに最低賃金を全国平均「1000円」にするという目標を掲げています。
     しかし,例えば,2016年6月に北海道労働組合総連合により発表された調査結果(「北海道最低生計費試算調査の結果について」)によれば,「札幌市で若者がきちんとした生活をする」には,「時給換算で男性=1295円,女性=1267円」が必要,とされており,時間額1000円という額は単身者にとってすら十分な額ではありません。むしろ,貧困と格差が拡大している我が国の現状や最低賃金法の趣旨等に照らすならば,時間額1000円の早期実現は最低限の目標であり,最低賃金をさらに大幅に引き上げることは,中央最低賃金審議会,各地方最低賃金審議会及び各都道府県労働局長の法的責務というべきです。
  6.  また,現在,中央及び地方の最低賃金審議会の多くは,実質的に非公開となっており,審理の内容や経過を検証することが困難となっています。審理の適正の担保のため,また最低賃金という国民にとって重要な事項が決定される過程を広く国民に知らせるため,審議会の内容,経過は可能な限り公開が要請されます。
     鳥取地方最低賃金審議会においては審理の全面公開が実現していますが,何ら問題は生じていないことが,日本弁護士連合会の調査で確認されています。中央及び北海道の最低賃金審議会においても,審理の公開を積極的に推進すべきです。
  7.  以上より,当会は,政府,中央最低賃金審議会,北海道地方最低賃金審議会及び北海道労働局長に対し,国民がおしなべて健康で文化的な最低限度の生活が営むことができるよう,最低賃金の地域間格差を解消しつつ,可及的速やかに最低賃金を時間額1000円以上とすること及び時間額1000円を超えるさらなる大幅な引き上げを行うことを求めます。また,審理の適正を担保するため,審理の公開を積極的に推進することを求めます。

2017年(平成29年)7月1日
札幌弁護士会
会長 大川 哲也

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