北海道へのカジノ誘致に改めて反対する会長声明
北海道は、カジノ解禁推進法が成立して以降、特定複合観光施設(IR)に関する有識者懇談会を計4回に渡って開催し、2019年4月17日にカジノ誘致に積極的な「IR(統合型リゾート)に関する基本的な考え方」(以下、「基本的な考え方」という)を公表しました。そして、北海道新知事は、報道によれば、近く誘致の是非について結論を出すとされています。
基本的な考え方では、誘致の是非についての結論を示してはいないものの苫小牧市を有力な候補地とし、とりわけ懸念されているギャンブル依存症問題については、2019年3月31日に設置された「北海道ギャンブル依存症対策推進会議」において、国が示す取組よりもさらに厳格な北海道独自の対策を検討しているとしています。
しかしながら、カジノには、ギャンブル依存症に伴う多重債務問題の再燃、家庭崩壊、自殺者増の懸念、犯罪増加と周辺地域の治安悪化の問題、カジノを資金源とする暴力団対策やマネーロンダリング対策の問題、カジノ施設が身近となる近隣の青少年への勤労意欲の減退などの影響等、看過できない問題点が多数含まれています。とりわけギャンブル依存症の問題は、以前から問題視されていたものの有効な対策が講じられてこなかったのが現実であり、国や道がようやく実態調査や対策の検討を始めるという段階にすぎません。「北海道ギャンブル依存症対策推進会議」においても、今後、どのような実態調査が行われるのか、その調査結果を踏まえてどのような対策を講じるべきなのか、そのための予算措置は可能であるのか、対策の有効性はどの程度あるのか等、慎重に検討し検証すべき課題は山積しています。現に生じているギャンブル依存症への対策が未整備な段階で、新たなギャンブルすなわちカジノを誘致すれば、この問題をさらに悪化させることは明らかです。
そもそもIR誘致の根拠とされる経済的効果には疑問があります。「基本的な考え方」では、苫小牧市に誘致した場合、IR全体の売上高は年間1560億円、経済波及効果は年間2000億円としていますが、「前提条件に不確定要素が多い」とも記載されており試算の根拠が明らかではありません。そして、「基本的な考え方」を策定するにあたって参考にしているのは成功例とされるシンガポールのみであり、逆に、ギャンブル依存症をはじめ数々の問題が指摘されている米国・アトランティックシティや韓国・江原ランドなどの実例がほとんど検証されていません。
また、カジノ運営は高度なノウハウが必要といわれ、運営主体はノウハウを蓄積した外国資本であることが想定され、その収益は海外に流出するなどの点が試算にどう反映されているのか、IR施設内部に集客が留まった場合に周辺の商業施設に与えるマイナス効果等の試算も検証されていません。
しかも、2018年の北海道の試算では来場者の半数は北海道民であると試算し、苫小牧市の試算では3割強としていますが、いずれにせよ北海道民からの収益も想定しています。この半数あるいは3割強の地元来場者が日常生活における有効な消費や他の用途、近隣への外出や旅行等の支出を抑え、その分が上記の売上高の試算額1560億円に含まれるのだとすれば、北海道経済全体からみて有効な施策といえるのか疑問を禁じ得ません。諸外国におけるIR施設では売上高のほとんどをカジノによる収益が占めているのですから、このような試算を前提にカジノを誘致すれば、むしろ北海道民にギャンブル依存症が拡大するおそれに繋がることとなります。
何よりも北海道は、この地域に住む私たちが、豊かな自然や文化を守り続けてきたことによって観光立国としての地位を獲得してきたのです。カジノによって多大な収益を上げるIR施設と、これに伴うギャンブル依存症や治安の悪化、地域の荒廃等の社会的問題によって、せっかくのイメージやブランド力が損なわれてしまうマイナス効果も懸念されるところです。
加えて北海道新聞の道民世論調査(2019年2月28日付)によれば「誘致に反対」が66%(賛成32%)であり、この結果はこれまで一貫しています。胆振管内に限っても2018年11月1日に発表されたもので、「反対」62%(賛成36%)と北海道内の他の地域とほぼ同じ結果となっています。
北海道においても誘致に向けた合意形成ができている状況とはほど遠く、先の北海道知事選においても明確な争点とはなっていませんでした。
当会は、これまでも2014年5月29日に「『特定複合観光施設区域の整備の促進に関する法律案』(いわゆる『カジノ解禁推進法案』)に反対する会長声明」、2017年1月31日に「『特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律』(いわゆる『カジノ解禁推進法』)の成立に抗議し、廃止を求める会長声明」を出し、カジノの推進には一貫して反対を表明してきました。
当会は、北海道へのカジノ誘致に改めて反対を表明するものです。
2019年(令和元年)6月10日
札幌弁護士会
会長 樋川 恒一