声明・意見書

少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明

 少年法の適用年齢を18歳未満に引下げることの是非をめぐり、法制審議会少年・刑事部会で議論がなされている。当会は、2015年(平成27年)6月15日付で適用年齢引下げに反対する旨の声明を出したが、現在の議論状況を踏まえ、あらためて少年法の適用年齢引下げに反対する。
 法制審議会の議論では、主に法律上の成人年齢の統一との観点が主張されるとともに、18歳、19歳について、不起訴処分等後に別途手当を行うという方向性が示されている。
 このうち、法律上の適用年齢の統一については、先の声明でも述べたとおり、法令の目的が異なれば適用年齢が異なることに合理性がある。もともと、2016年(平成28年)年施行の改正公職選挙法が端緒となり、18歳を成人とする民法改正に至った一方で、未成年者飲酒禁止法、未成年者喫煙禁止法等は改正されていない。これは、法令の目的によって法令の適用年齢が異なり得ることを端的に示している。
 また、法制審議会で検討されている、若年層成人に対する「若年者に対する新たな処分」は、検察官が、18歳、19歳に対し、成人として起訴猶予等の処分を行った後、更に家庭裁判所に送致し、家庭裁判所で審判を行い、別途保護観察等の処分を行うというものである。これは、家庭裁判所への送致の是非を少年非行の専門家ではない検察官が行うことになる点、起訴猶予等の処分後に別途家庭裁判所が保護観察等の審判を行うことは若年層以外の成人以上の負担を科す点で問題がある。加えて、検察官によって起訴猶予等の処分を受けた若年層成人に対し、家庭裁判所の調査に積極的に協力することは期待できず、十分な調査がし尽くされないまま審判が行われ、現行少年法のもとで培われた家庭裁判所の役割が十分機能できなくなる懸念がある。
 少年法は、少年の健全な育成、非行少年の更生及び環境調整を目的としており、子どもの最善の利益のために社会全体で子どもを育むとの社会的養護の側面を多分に有する。実際、被虐待児が非行を犯す事案も少なくないが、少年法の適用年齢を18歳未満とした場合、社会的養護を受けるべき少年が適切な支援を受けられない状況に陥る。
 児童青年精神医学会も、2016年(平成28年)9月4日付で、脳は25歳まで発達するとした研究結果等を踏まえて、少年法の適用年齢引下げに反対し、適用年齢はむしろ引上げられるべきであるとの声明を発出している。
 少年事件の全体数は激減する中で、いわゆる凶悪犯罪も大幅に減少しており、少年事件が凶悪化していることを理由に少年法の適用年齢を引き下げるべきとの論拠は、全く実態を反映していない。
 このように、少年法の適用年齢を引下げるべき立法事実がない上、現在法制審議会で検討されている「若年者に対する新たな処分」は、現行少年法の下での若年者の処遇を、著しく後退させるものである。
 当会は、以上の理由から、少年法の適用年齢引下げに、断固として反対する。

2019年(令和元年)6月10日
札幌弁護士会
会長 樋川 恒一

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