ハンセン病家族訴訟判決に関する会長談話
ハンセン病の患者とされた方々の家族561名が国を相手として提起した国家賠償請求訴訟(ハンセン病家族訴訟)の判決が、2019年(令和元年)6月28日、熊本地方裁判所において言い渡された。
熊本地方裁判所は、国がハンセン病の患者とされた方々を療養所に強制収容するなどした凄惨な強制隔離政策が、患者とされた方々だけではなく、その家族に対する差別を作り出し、家族の人権をも侵害したことを認めた。強制隔離政策を推進した厚生省、その政策を廃止しなかった国会の責任を認め、さらに、強制隔離政策の根拠である「らい予防法」が1996年(平成8年)に廃止されたにもかかわらず家族への差別を除去すべき義務を怠った、厚生省(厚生労働省)、法務省、文部省(文部科学省)の責任を認めた。
国の強制隔離政策によって社会の差別が作られ、家族は、ハンセン病の患者が身内にいるというだけで、結婚や就職など人生のあらゆる場面で深刻な差別にさらされた。家族は、療養所に隔離されている親や兄弟姉妹などその存在を、家族であるにもかかわらず、ひた隠しにして生きていかざるを得なかった。ハンセン病の患者とされた方々とその家族は、家族関係を築くことができず、あるいは家族関係を失った。家族は人生そのものを傷つけられた、まさに判決の指摘する「人生被害」を受けた。
このような差別と人生被害は、裁判所が認めるとおり、今なお存在する。北海道も例外ではない。北海道でも、ハンセン病の患者とされた方々を本州にある療養所に強制収容するという強制隔離政策が行われ、その結果、道内に残る家族への根強い差別が生まれた。ハンセン病家族訴訟には北海道からも参加者がおり、判決で国の責任が認められた。
当会は、らい予防法が憲法に違反することを認めた「らい予防法違憲訴訟」を契機に、遅ればせながらも、療養所に隔離されている道内出身者を訪問し、そのお話をうかがうことから始め、その後、市民団体等と協力して、ハンセン病による差別の解消を目指して取り組みを続けてきた。2003年(平成15年)から現在に至るまで、パネル展、講演会、学生や教育関係者等へのセミナーや映画上映会などのイベントを展開してきた。2011年(平成23年)には北海道庁等とともに「北海道ハンセン病問題を検証する会議」において道内のハンセン病問題を検証する報告書作成過程で検証作業に携わった(同報告書は北海道庁のホームページで公開されている。)。昨年2018年(平成30年)には、関係団体と協力して、青森県の松丘保養園(療養所)に強制収容された北海道出身者の被害体験を冊子にまとめ、全道の教育機関に配布した。
このように当会では、ハンセン病による差別解消に向けた取り組みを続けてきたが、ハンセン病家族訴訟に参加した家族のほとんどは匿名で参加しており、また、訴訟への参加をためらった方々も数多く存在するのが現状である。家族の受けた被害、根深い差別を解消するには、今後なお一層の取り組みが必要である。
国は、このような家族の被害、根深い差別の存在を認めた本判決を真摯に受け止め、一刻も早く家族の被害回復を図るため、控訴を断念すべきである。差別されることをおそれて訴訟に参加できなかった家族を含め、国はすべての家族に対して謝罪し、今なお社会に残る差別を解消し、家族関係が少しでも回復されるような政策の実施に向けて、直ちに家族との対話を始めるべきである。
当会は、過去にハンセン病問題に対する取り組みが遅れた責任を自覚しつつ、ハンセン病の患者とされた方々とその家族に対する差別がなくなるよう、ハンセン病問題について、今後も全力で取り組んでいくことを改めて決意し、ここに上記のとおり表明する。
2019年(令和元年)7月8日
札幌弁護士会
会長 樋川 恒一