名古屋出入国在留管理局における被収容者の死亡事件に関する原因解明及び入管行政の抜本的な見直しを求める会長声明
1 2021年3月6日,名古屋出入国在留管理局収容場において,被収容者である30代のスリランカ国籍の女性が死亡するという事件が発生した。
報道等によれば,当該女性は,収容後に体調が悪化し,仮放免や入院治療等を希望したにもかかわらず,出入国在留管理局はこれを許可しなかったという経緯があった。
出入国在留管理局は,被収容者をその管理下で拘束する以上,被収容者の生命・身体の安全を守るべき全責任を負っており,被収容者が死亡する事態は絶対に許容できない。今般,出入国在留管理庁は,調査チームを発足させ,同年4月9日には中間報告が公表されたが,当該報告の内容に,外部の医師が作成した医療記録との食い違いが見られるとの報道もなされている。
そこで,本件死亡事案の調査は,徹底的に,透明性の確保された方法で行われるべきであり,当会は,政府に対し,内部調査にとどまらず,第三者機関を創設するなどして調査方法を見直すべきことを強く要請する。
2 これに関連して,2021年2月19日に「出入国管理及び難民認定法などの一部を改正する法律案」が閣議決定されて国会に提出されたが,世論の反対などにより,本国会での成立は見送られたところである。
当該法律案には,送還を拒否する者などに対する刑事罰の創設や,難民認定申請が3回以上にわたる場合には,当該難民認定申請者の送還を可能とすることなどが盛り込まれており,これらが対象となる外国人の権利を広範に制限するものであって極めて問題であることは,当会の2020年12月7日付「『送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言』に対する会長声明」において指摘したとおりであって,法案成立が見送られたのは当然のことである。
3 他方で,現行制度のもとでは,長期収容問題が存在することは事実であり,2020年12月時点で,6か月以上にわたって収容されている外国人は207人にものぼる。そして,前記死亡事案のように,2007年以降に収容中に亡くなった外国人の数は17人(うち5人は自死)と,長期収容問題は取り返しのつかない結果を生じさせ,人権侵害性は著しい。そのため,長期収容問題の解決に向けた議論を止めるべきではない。具体的には,わずか1.2%の認定率(2020年)しかない我が国の難民認定制度の運用を見直し,難民条約上の難民ではないものの,難民に準じて保護すべき外国人につき,難民と同様に日本での在留を認める手続きを創設すべきである。
4 そこで,当会は,政府に対し,刑罰等による威嚇を含む従前の方針を抜本的に見直し,長期収容問題を本質的に解決する実効性のある法改正を迅速に行うことを要請する。
以上
2021年(令和3年)6月24日
札幌弁護士会
会長 坂口 唯彦