声明・意見書

最高裁判所大法廷決定を受けて、民法750条を改正し、選択的夫婦別姓制度を導入することを再度求める会長声明

 2021年6月23日、最高裁判所大法廷は、婚姻に際し夫婦同姓を強制する民法750条及び戸籍法74条1号について、婚姻の自由を定める憲法24条等に違反するものではないと判断した。

 この裁判では、婚姻に際し、夫婦同姓を受け入れないと法的な結婚ができないものとし、夫婦の一方、現実的には結婚した夫婦の約96%において女性に対し姓を変えることを強制している点が、個人の尊厳、平等権、婚姻の自由を侵害しているとの点が争われた。
 民法750条が定める夫婦同姓の強制は、憲法13条及び同24条2項が保障する個人の尊厳、同24条1項及び同13条が保障する婚姻の自由、同14条1項及び同24条2項が保障する平等権並びに女性差別撤廃条約16条1項(b)が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項(g)が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む)」を侵害するものである。
 姓を変えることは、アイデンティティの喪失や、婚姻前後の個人が同一人と認識されず、特に社会生活上の信用や評価を損なうという点で、姓を変える当事者にとっては重大な不利益となる。これは、男女共同参画社会の実現が求められ、婚姻後も継続して社会で活躍する女性が増加し、それを後押しすべき現代社会において、より大きな制約となっている。
 また、日本は、1985年に女性差別撤廃条約に批准しているが、国連の女性差別撤廃委員会から、2003年、2009年、2016年の3度にもわたって、夫婦別姓を認めない民法の差別的規定を是正するよう勧告を受けている。同条約に加盟している180を超える国のうち、夫婦別姓を認めていない国は日本のみである。

 そうであるにも関わらず、最高裁判所は、2015年12月16日の大法廷判決を引用したのみで、同判決以降にみられる諸事情を踏まえても判断を変更すべきものとは認められないとし、再び合憲判断を繰り返したことは、極めて不当であり、失望を禁じ得ない。最高裁判所は、違憲の判断を下し、人権の最後の砦として司法の役割を果たすべきであった。
 もっとも、4人の裁判官が、多数意見と異なり、両規定について憲法24条に違反するとの判断をしたことは注目すべきであり、その判断内容は非常に説得的である。「選択的夫婦別氏制を導入することによって向上する国民の福利は、同制度を導入することによって減少する国民の福利よりもはるかに大きいことが明白であり、かつ、減少するいかなる福利も人権又はこれに準ずる利益とはいえない」(裁判官草野耕一)との意見に国会は耳を傾けるべきである。更に3人の裁判官の補足意見は、国会に対して選択的夫婦別姓制度の導入を含む議論の促進を強く求めている。
 法務大臣の諮問機関である法制審議会が1996年に選択的夫婦別姓制度を導入する民法改正要綱試案を答申してから既に四半世紀が経過し、様々な議論が尽くされたにもかかわらず、国会がこれ放置してきたものであって、これ以上の議論の先延ばしは許されない。
 当会は、1996年に民法改正要綱試案が取りまとめられた当時から、民法750条の早期改正を求めてきた。2015年12月21日、今回の最高裁決定が引用する2015年12月16日最高裁大法廷判決に対しても会長声明を出し、その不当性を訴えるとともに、国に対し早期の改正を求めたところであり、今日に至るまでこれが実現していないことは誠に遺憾である。
 当会は、再度、国に対し、民法750条を速やかに改正し、選択的夫婦別姓制度を導入することを強く求める。

2021年(令和3年)7月14日
札幌弁護士会
会長 坂口 唯彦

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