旧優生保護法によるすべての被害者に対する全面救済を求める会長声明
- かつて我が国には、優生保護法(以下「旧優生保護法」という)という法律があった。旧優生保護法には、優生思想(国の発展を妨げる子孫を生んではいけないという考え方)に基づき、「不良な子孫の出生を防止する」という目的が明記され、特定の障害や疾患等を有する方に対する、強制不妊手術(優生手術)が行われていた。その数は2万5000人以上にのぼるとされている。とりわけ北海道では全国の都道府県で最も多い2593人に手術が行われた負の歴史がある。1948年にこの法律がつくられてから約50年が経過した1996年に至り、上記の目的及び優生条項が削除され、名称も母体保護法と改正された。
- 憲法13条が「すべて国民は、個人として尊重される」と定めているように、この世界に一人として「不良」な人間や「不良」な子どもは存在しない。また、憲法14条は「すべて国民は法の下に平等」であると定めている。しかしながら、国は、憲法13条、14条に明らかに違反する法律を作りながら、約50年にもわたって人権侵害を継続し、その後も被害回復の措置をとることなく、放置してきた。
- 2022年2月22日には大阪高等裁判所が、同年3月11日には東京高等裁判所が、いずれも一審の原告敗訴判決を変更し、請求を一部認容するという画期的な判決(以下「大阪高裁判決」、「東京高裁判決」という。)を言い渡した。
いずれの判決も、立法目的が差別的思想に基づくものであって正当性を欠く上、目的達成の手段も極めて非人道的なものであると旧優生保護法の違憲性を明確に認め、大阪高裁判決はそのような憲法違反の法律を立法した国会議員の責任を肯定し、東京高裁判決は同法に基づいて違憲・違法な優生手術を実施せしめた厚生大臣の責任を肯定したという相違はあるものの、国の国家賠償責任を認めた。その上で、これまで一審判決が除斥期間をもって原告の請求を斥けたのに対して、国が自ら違憲な行為を行っていながら除斥期間によって免責されることは、正義・公平の理念に反するとして、除斥期間の適用を制限することとしたものである。 - これまで各地の同種訴訟ではその多くが旧優生保護法の明確な違憲性が肯定されながらも、除斥期間が高い壁となって、請求棄却判決が相次いでいただけに、大阪高裁判決及び東京高裁判決がこの壁を乗り越えて、被害者の切なる願いに寄り添う判決をしたことについては、高く評価できる。
とりわけ、東京高裁判決は、憲法違反の法律に基づく施策によって生じた被害の救済を、憲法の下位規範である民法724条後段を無条件に適用することによって拒絶することは慎重であるべきで、憲法17条により保障された国家賠償請求権を実質的に損なうことがないよう留意しなければならないことにも言及している。除斥期間の適用に関して、このような憲法に立脚した法論理が語られたことは画期的である。 - 裁判の原告を含む多くの被害者が高齢であり、迅速な全面解決が必要である。当会は、国に対し、旧優生保護法に基づく過酷な被害をもたらしたことを真摯に反省し、大阪高裁判決に対する上告受理の申立てを取り下げるとともに、東京高裁判決に対する上告又は上告受理の申立てを断念し、両判決を速やかに確定させた上で、旧優生保護法の問題の全面解決に向けて、両判決が示した法的な賠償責任を前提に、被害を償うに足りる十分な賠償・補償はもちろんのこと、責任の明確化と謝罪及び真相究明・恒久対策について早急に検討し、一人でも多くの被害者に被害回復の途が開かれるよう積極的な対応を行うよう求める。
- 当会としては、今後も、旧優生保護法下で人権侵害を受けた被害者及び家族に対し、国が真摯に謝罪し、さらに実態解明を進めること、すべての被害回復がなされることに向けて必要な提言を適時に行っていくとともに、これからも社会に存在する人権侵害に目を向け、問題提起と被害回復の実現に向けて、真摯に取り組んでいく所存である。
2022(令和4)年3月24日
札幌弁護士会
会長 坂口 唯彦