声明・意見書

成年年齢引下げを伴う改正法施行にあたり、改めて若年者消費者被害防止のための早急な諸施策を求める会長声明

 本年4月1日、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律第59号、以下「本法律」という。)が施行された。
 本法律の施行により、同日時点で満18歳・19歳に達している若者は、同日以降の法律行為について、未成年者取消権(未成年者が親権者等法定代理人の同意を得ずにした契約などの法律行為を取り消すことができる権利)を行使することができなくなった。また、同日以降に満18歳を迎える若者も、満18歳になると同時に、それ以降の法律行為について未成年者取消権を行使できなくなる。これらの若者を悪質商法のターゲットとする消費者被害拡大の懸念が強く生じている。
 本法律制定に先立つ2009(平成21)年10月の法制審議会の最終報告書においては、成年年齢の引下げに関し、「18歳、19歳の者が、悪質業者のターゲットとされ、不必要に高額な契約をさせられたり、マルチ商法などの被害が高校内で広まるおそれがあるなど、18歳、19歳の者の消費者被害が拡大する危険」が指摘されていた。
2018(平成30)年6月の本法律成立時においてもなお、かかる危険に対する懸念は大きかった。そのため、参議院の法務委員会は、全会一致で、①本法律成立後2年以内に、消費者の知識・経験の不足等の事情を不当に利用して事業者が消費者を勧誘し契約を締結させた場合における、いわゆるつけこみ型不当勧誘取消権の創設など、若年者の消費者被害の防止・救済のために必要な措置を講ずること、②マルチ商法等の被害の実態に即した対策について検討を行い、必要な措置を講ずること、③消費者教育を充実させること、④18歳、19歳の若年者に理解されやすい形で成年年齢の引下げについての周知徹底を図ること、などについて政府に「格別の配慮」を求める附帯決議を行った。加えて、本法律成立から施行までは、異例とも言える長期の3年10か月もの期間が設けられた。
 しかしながら、本法律成立から2年を越えて、3年10か月を経過し、本法律施行まで至ったにもかかわらず、つけこみ型不当勧誘取消権は創設されていないなど、必要な法整備は尽くされていない。また、近年若年者の間で被害を拡大させているマルチ商法の実態に即した対策も講じられていない。消費者教育についても、一定の努力はなされているが、上記のとおり若年者に対する被害拡大のさなかにあるにもかかわらず、若年者に対するマルチ商法の仕組みや実態、危険性についての啓発・教育は不足している。何よりも、成年年齢引下げにより、未成年者取消権を行使できなくなる若者へのリスクの周知徹底は、いまだ不十分である。上記附帯決議において「格別の配慮」をすべきとされた事項への配慮を政府が尽くしたとは、到底評価できない。
 当会は、2021(令和3)年7月14日付で、「成年年齢引下げに伴い若年者の消費者被害が拡大することを防止するため、実効性ある施策を早急に実現することを求める会長声明」を発出し、施行まで若年者が被る影響や問題点を国民に広く周知すること、上記附帯決議に示された措置を早急に実現することを強く求めたが、その後状況の改善はほとんどないまま、今日を迎えた。現状では、多くの若者の消費者被害の拡大を防ぐことができない。
 このような状況は、直ちに是正されるべきである。当会は改めて、国に対して、早急に成年年齢引下げによって若年者が被る影響や問題点を国民に広く周知し、上記附帯決議に示された被害防止措置を早急に実現するよう強く求める。

2022(令和4年)4月28日
札幌弁護士会
会長 佐藤 昭彦

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