声明・意見書

北海道へのカジノ誘致に改めて反対する会長声明

 北海道は、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(いわゆる『カジノ解禁推進法』)が成立して以降、2019(平成31)年4月17日にカジノ誘致に積極的な「IR(統合型リゾート)に関する基本的な考え方」(以下「基本的な考え方」という)を公表した。基本的な考え方では、苫小牧市を有力な候補地にしていたが、同年11月に、候補地において、環境への適切な配慮を限られた期間で行うことは不可能であり、来たるべき時期に向けIR誘致への挑戦の取組を進めていくとして認定申請の見送りを表明した。
 このような中、北海道は、2025(令和7)年8月になって道内各自治体にカジノ誘致に関する意向調査を行い、同年11月に「統合型リゾート(IR)に関する基本的な考え方」の改訂に向けた骨子を公表し、同年12月に統合型リゾート(IR)に関する有識者懇談会を設置した。優先候補地として、苫小牧市の取組情報を注視している。そして、2026(令和8)年1月及び同年2月に同懇談会を開催した上で、同月に「中間整理」を公表し、本年秋を目処に改訂版の成案を提示する予定としている。しかし、政府が目指すIR整備の申請受付期限は2027(令和9)年11月とされており、本年秋に基本的な考え方を示したのち、その後のわずかな期間で候補地を決定し申請に至るというスケジュールは到底現実的ではなく、見通しの立たない拙速な対応であると言わざるを得ない。
 そもそも、カジノには、ギャンブル依存症に伴う多重債務問題の再燃、家庭崩壊、自殺者増といった、個人の「生存権」や健康に生活する権利を侵害する重大な人権問題を引き起こす危険を孕んでいる。また、カジノには犯罪増加と周辺地域の治安悪化の問題、カジノを資金源とする暴力団対策やマネーロンダリングの問題、カジノ施設が身近となる北海道民、特に青少年への勤労意欲の減退などの影響等、看過できない社会問題を引き起こす危険も孕んでいる。
 ギャンブル依存症の問題は、以前から指摘されていた。北海道では、2018(平成30)年10月に施行されたギャンブル等依存症対策基本法に基づく都道府県計画として、国が2019(平成31)年4月に策定した「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」を踏まえ、本道の実情に即した体系的なギャンブル等依存症対策を推進するため、2020(令和2年)3月に「北海道ギャンブル等依存症対策推進計画」を策定し、2期にわたって取組を実施してきた。しかしながら、上記「中間整理」でも報告されているとおり、ギャンブル等依存症対策推進法が施行された2018(平成30)年度比で、2023(令和5)年度の北海道における行政機関における相談実績は140件増の900件とされ、人口10万人あたりの相談件数も3.3件増の17.7件であり、むしろギャンブル等依存症の相談が増加している。そして、2023(令和5)年度時点でのギャンブル等依存症が疑われる者は北海道内に7万3000人もいるとされているものの、2022(令和4)年度に北海道の精神科医療機関で治療を受けている者は、入院患者が13人、外来患者は280人であり、医療につながっている者はわずかにすぎない。このように、当該取組をもってしても、依存症対策の成果が出ているとはいえない。2026(令和8)年3月に北海道が策定した第3期「北海道ギャンブル等依存症対策推進計画」でも、現状の課題として、「これまでの啓発では十分ではなく、正しい理解が進んでいない可能性があ」るとしており、北海道もこれまでの取組が十分ではなかったことを認めている。

 また、2019(令和元)年11月の認定申請見送時にはなかった事情として、インターネットを通じて行うギャンブルやオンラインカジノの問題がある。道内において、公営ギャンブルである「ホッカイドウ競馬」ではインターネット販売が9割を超えており(北海道作成「ホッカイドウ競馬のご紹介(R7.6)」)、これがギャンブル依存症の新たな誘因となっていることを北海道も指摘している。そして、オンラインカジノは、我が国では違法であるにもかかわらず、その手軽さから少なくない者が利用しており、社会問題化している。
 このように、既になされているギャンブル依存症対策が功を奏しておらず、合法違法にかかわらず新たな形態のギャンブルに対する対策も不十分である中で、北海道内にカジノというさらなるギャンブルを持ち込むことは極めて危険である。
 今回、北海道におけるIR誘致では、「北海道らしいIRコンセプトの構築」を掲げているものの、「北海道らしさ」とカジノは結びつかない。
 現行のIR制度はそもそも大都市圏を想定した規模要件となっており、人口や利用者の規模が小さい地方都市で事業継続性を確保できるかという大きなハードルがあり、ギャンブル依存症の社会損失を考えれば、経済効果はむしろマイナスと考えられる。何より北海道は、この地域に住む私たちが、豊かな自然や文化を守り続けてきたことによって観光立国としての地位を獲得してきた。カジノによって収益を上げるIR施設と、これに伴うギャンブル依存症や治安の悪化、地域の荒廃等の社会問題によって、せっかくのイメージやブランド力が損なわれてしまうマイナス効果が懸念されていることは、2019(令和元)年11月の認定申請の見送り時点にも指摘がなされている。
 加えて、2025(令和7)年8月に北海道が北海道内の各市町村に行ったIR整備への関心に関する意向調査では、関心あり・なしの回答にかかわらず、IRへの懸念として、ギャンブル依存症の増加、治安の悪化、犯罪の増加、青少年への悪影響、カジノによる地域イメージの低下などを挙げている。このように、2019(令和元)年11月の認定申請の見送り時点にも指摘がなされていたIRへの懸念が解消されておらず、現状においてカジノによる多数の人権問題・社会問題を解消する手段はない。
 北海道のカジノ誘致に対し、当会では、2014(平成26)年5月29日に「『特定複合観光施設区域の整備の促進に関する法律案』(いわゆる『カジノ解禁推進法案』)に反対する会長声明」、2017(平成29)年1月31日に「『特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律』(いわゆる『カジノ解禁推進法』)の成立に抗議し、廃止を求める会長声明」、2019(令和元)年6月10日に、「北海道へのカジノ誘致に改めて反対する会長声明」を出し、カジノの推進には一貫して反対を表明してきた。
 当会は、北海道へのカジノ誘致に改めて反対を表明するものである。

2026(令和8)年5月15日
札幌弁護士会 会長 佐々木 潤

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