声明・意見書

防衛装備移転三原則の5類型撤廃を含む運用指針の改定に強く抗議し、日本国憲法の普遍的な価値を再確認する活動を展開することを決意する会長声明

 日本国憲法は、その前文において「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」との決意を掲げ、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認」した。そして9条において、国際平和を誠実に希求し、国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄し、戦力を保持しないことを定めている。我が国は、この恒久平和主義の理念の下、戦後一貫して「平和国家」としての道を歩んできた。この理念を国際社会における具体的な行動として体現してきたものの一つが、武器輸出に関する我が国の基本姿勢である。すなわち、1967(昭和42)年の佐藤栄作内閣総理大臣による答弁、及び1976(昭和51)年の三木武夫内閣による「『憲法』等の『精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする』」との政府統一見解により、我が国は、実質的に全ての地域に対して武器の輸出を認めない方針を維持してきた。これは、「武器の供給源とならず、武器の売買で利益を得ない」という姿勢を通じて、国際紛争等を助長する事態を回避し、平和国家としての立場を世界に明らかにするためのものであった。
 しかしながら、政府は、2014(平成26)年4月1日、「我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増していること」などを理由として、従来の方針を改め、防衛装備移転三原則を閣議決定した。これは、「平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合」等に防衛装備の海外移転を認めるもので、従来の武器輸出三原則における原則と例外を逆転するものであった。
 もっとも、この閣議決定に基づく防衛装備移転三原則の運用指針では、「平和貢献」「国際協力」といった目的は保持され、防衛装備の海外移転はかかる目的に資するいわゆる5類型(救難、輸送、警戒、監視及び掃海に係る協力に関する防衛装備)の限定が設けられており、直接人を殺傷し、又は武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする武器の完成品は輸出できないとされていた。
 ところが、2026(令和8)年4月21日、政府は、国家安全保障会議及び閣議において、上記5類型を撤廃し、かつ、条件次第で紛争当事国への殺傷能力のある武器輸出も可能とするよう防衛装備移転三原則の運用指針を改定した。
 これにより戦闘機、護衛艦、潜水艦等の直接人を殺傷し、又は武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする武器の完成品であっても輸出できるようになり、日本が輸出する武器により国際紛争等が助長されて、結果として、人が殺傷される事態を招く危険性が大幅に高まることになる。本改定は、前述の平和的生存権を保障した憲法前文の精神に反し憲法9条の理念にも背くものであり、「平和国家」としての理念を根底から変容させるものである。
 日本国憲法の三大原則の一つである恒久平和主義を根底から変容させることについて、国民に熟慮の機会を与えず閣議決定でたやすく覆すとは、議会制民主主義、ひいては「法の支配」に対する挑戦というほかない。
 政府は、今回の運用指針の見直しの意義として「防衛装備移転推進を通じた同盟国・同志国の抑止力・対処力強化、相互に支援する環境の構築」が必要であると説明している。しかしながら、殺傷能力の向上した武器が多数の無辜の市民の命を奪い、その尊厳を著しく傷つけていることは、昨今の国家間の武力衝突を見ても明らかである。
 日本は、戦後、「二度と戦争を起こさない」という強い決意を世界に発信し続け、「平和国家」というブランドを確立してきた。これが独自の国際的地位の構築に大きく寄与し、実際に平和を維持し続けてきたこともまた事実である。
 厳しい国際情勢であればこそ、日本は「平和国家」のブランドを弛まず世界に発信し続け、武力による威嚇又は武力の行使ではなく、他国との信頼関係に基づく対話による平和の実現を図るべきである。
 日本国憲法の崇高な理念を、あろうことか閣議決定でたやすく放棄し、「平和主義」を根底から変容させるような政策変更を行った政府に強く抗議するとともに、今こそ日本国憲法の普遍的な価値を再確認する活動を展開することを、当会として改めて強く決意する。

以上

2026(令和8)年5月21日
札幌弁護士会 会長 佐々木 潤

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