在留審査手数料の大幅引上げを定める改正入管法及び改正政令案に反対し、抜本的見直しを求める会長声明
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2026(令和8)年5月29日、政府が閣議決定して国会に提出した出入国管理及び難民認定法等の改正法(以下「同改正法」という。)が成立した。同改正法は、従前1万円とされていた在留資格の変更許可、在留期間の更新許可及び永住許可等に係る手数料の「上限額」について、在留資格の変更許可及び在留期間の更新許可については10万円、永住許可については30万円にまで引き上げるものである。
さらに、政府(出入国在留管理庁)は、同年10月1日の同改正法の施行に伴い、出入国管理及び難民認定法施行令(以下「入管法施行令」という。)等の改正を行うことなどを予定しており、同年7月、在留審査手数料の具体額を定める入管法施行令等の一部を改正する政令案(以下「改正政令案」という。)を公表し、意見公募手続に付した。改正政令案は、在留資格の変更許可及び在留期間の更新許可に係る手数料を、現行の窓口申請一律6000円から、付与される在留期間等に応じて1万円から7万5000円までに引き上げ、永住許可に係る手数料を現行1万円から20万円に引き上げる内容である。これは、法律上の上限額の範囲内ではあるものの、変更・更新では最大12・5倍、永住許可では20倍に及ぶ大幅な負担増である。 -
政府は、同改正法の趣旨について、在留外国籍者の増加に伴い、外国籍者の適正かつ円滑な受入れや秩序ある共生社会の実現に向けた施策を強化・拡充する必要があり、その費用について、受益者負担の観点から外国籍者に相応の負担を求めるものであるなどと説明している。
しかし、この説明は、同改正法の本質を覆い隠すものである。
在留資格の変更や更新は、日本で既に生活している外国籍者にとって、任意に利用する行政サービスではない。就労し、学び、家族と暮らし、地域社会の一員として生活を続けるために避けて通ることのできない手続であり、その手数料は、生活継続のために事実上支払わざるを得ない負担である。
そのような手続について、改正政令案において現行の数倍から20倍に及ぶ手数料を課すことは、単なる事務手数料の見直しではない。日本で暮らし続けること、家族と安定して生活すること、将来にわたって地域社会の構成員として定着すること自体に、経済的な関門を設けるものである。
とりわけ、永住許可手数料20万円は、永住を希望する家族が複数人で許可を受ける場合、家計に極めて重い一時負担となる。家族4人であれば合計80万円に達し、家賃、教育費、医療費その他の日常生活費と競合する。これは、低所得世帯、ひとり親世帯、子どもや高齢者を抱える世帯等に対し、生活の安定を著しく困難にする制度である。
この点、政府(出入国在留管理庁)は、改正政令案とともに、在留許可手数料の減額対象者となり得る具体的な場合を示すガイドライン(案)(以下「在留許可手数料の減額対象者のガイドライン(案)」という。)も公表している。しかし、生活保護法上の要保護者に準ずる程度に生活に困窮していることに加え、難民又は補完的保護対象者、人身取引等の被害者、児童養護施設等に入所している者、指定難病の患者又は障害児等、同案が列挙する「人道上の配慮をする必要がある者」のいずれかに該当することも求められており、経済的困窮だけでは足りず、限定された人道上の類型にも該当しなければ、減額の対象となり得ない枠組みとなって、対象者は極めて限定的である。
結局のところ、費用を負担できる者だけが安定した在留や永住に近づける制度であることに変わりはなく、在留資格の維持を資力の有無によって外国籍者を選別するものであり、法の下の平等及び個人の尊重の理念に照らし、看過できない。 -
また、「受益者負担」という説明にも重大な疑問がある。
外国籍者の受入れ、在留管理及び共生社会の実現は、申請者個人だけが利益を受けるものではない。人手不足の下で外国籍者の労働、納税、社会保険料の負担、消費、地域活動、子育てに支えられているのは、日本社会全体である。外国籍者もまた、税金や社会保険料を負担し、地域社会を支える一員である。
それにもかかわらず、共生施策や出入国在留管理体制の整備に要する一般的費用を、受益者負担という名目で、在留資格の維持という弱い立場に置かれた外国籍者に転嫁することは、不合理と言わざるを得ない。 -
外国籍者は、労働力でも、調整弁でもない。人手不足のときだけ受け入れ、費用がかかるようになれば「受益者負担」の名の下に遠ざけてよい存在ではない。日本で働き、税金や社会保険料を負担し、子どもを育て、地域社会の中で生活している一人ひとりの人間である。外国籍者であるという理由により、その生活の継続に不可欠な手続について過大な経済的負担を課し、その結果、在留の継続、家族生活、就労、修学を事実上困難にすることは、憲法13条が基礎とする個人の尊重、憲法14条の平等原則、さらには基本的人権尊重の理念に照らし、重大な疑義を免れない。
戦後の日本は、個人の尊厳、基本的人権の尊重、法の下の平等を掲げる憲法の下で、国際社会における信頼を築いてきた。その日本が、日本で暮らす外国籍者を、必要なときだけ利用し、生活者としての尊厳や権利を十分に尊重しない制度を採るのであれば、それは、日本が自ら築いてきた信頼と品位を自ら傷つけるものである。外国籍者の尊厳を軽んじる国は、国際社会から、人権と人間の尊厳を尊重する国としての信頼と敬意を受け続けることはできない。 -
当会は、外国籍者もまた地域社会を構成する一人ひとりの人間であり、その尊厳と基本的人権が尊重されなければならないとの立場から、在留審査手数料の「上限額」の大幅引上げを定める同改正法に強く反対する。国会に対し、在留資格の維持に不可欠な手続について外国籍者に過大な経済的負担を課す同改正法の問題を改めて検証し、手数料上限額の大幅引上げ部分の撤回を含む再改正を行うよう求める。
また、政府(出入国在留管理庁)に対し、改正政令案及び在留許可手数料の減額対象者のガイドライン(案)に関する各意見公募手続に寄せられる当事者の生活実態と社会的影響を真摯に踏まえ、改正政令案を撤回し、高額な手数料を定めないこと、少なくとも現行水準を基本として手数料額を抜本的に抑制すること、また、在留許可手数料の減額対象者のガイドライン(案)については、対象者を限定的に定めた枠組みを改め、経済的に困窮するものを広く減額対象とすべきことを強く求める。なお、意見公募手続に際しては、高額な手数料によって最も深刻な影響を受ける者が意見を述べる機会を十分に得られないまま制度が決定されることは、共生社会の実現という政府自身の掲げる理念にも反するため、改正政令案について多言語で十分に周知し、日本語を母語としない外国籍者からも実質的な意見を聴取できる仕組みを用意すべきであることに留意されたい。
以上
2026(令和8)年7月27日
札幌弁護士会
会長 佐々木 潤













