2009年度
取調べの可視化(全過程の録画)を求める会長声明
- 1990年(平成2年)5月に発生した幼女誘拐・殺人・死体遺棄事件(いわゆる足利事件)の犯人とされ、無期懲役の刑で服役していた菅家利和さんが、本年6月4日、刑の執行を停止され、同月23日、再審開始が決定された。
再審の開始決定は、被害者の衣服に残っていた体液の型と菅家さんのDNAが一致しないという再鑑定の結果を「無罪と言い渡すべき新証拠」と判断したことによる。これにより、足利事件が冤罪事件であることが決定的となった。再審においては、DNA鑑定がなされた経緯や自白に至る経緯等、誤判を生んだ真相が徹底的に究明されるべきである。
- 足利事件においては、菅家さんが、取調べ段階において犯行を「自白」し、その旨の供述調書が作成されている。菅家さんの自白調書が存在するという事実は、たとえ無実の者であっても、容易に虚偽の自白をしてしまうということを具体的に証明するものである。
現在の刑事裁判は、密室で作成された被疑者・被告人の供述調書を偏重しているにもかかわらず、供述調書の作成過程を事後的・客観的に検証する手段が存在しない。そのために、取調官の違法・不当な取調べ、虚偽の自白の誘発等が横行し、その結果多くの冤罪が生み出されてきた。
そこで、当会は、2008年3月、取調べの可視化を求める会長声明を発しているが、足利事件における虚偽自白の存在は、冤罪防止のため、取調過程の全面的な可視化が必要不可欠であることを改めて強く認識させたものだと言わなければならない。
- 本年4月、参議院は、昨年6月に続き、被疑者の供述及び取調べの状況のすべてについて全面的可視化を義務づける法案を可決している。さらに、取調べの可視化を求める請願署名が約112万筆にのぼり、本年5月、衆議院議長に提出されるなど、取調べの可視化実現に向けた市民の要求も高まっている。
よって、当会は、衆議院に対し、取調べの可視化を義務づける法案を早急に可決することを求めると同時に、警察庁・検察庁に対し、直ちに、取調べの全面的な可視化を実施することを強く求める。
2009年7月2日
札幌弁護士会 会長 高崎 暢
このページのトップへ