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声明・意見書2009年度

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海賊行為対処法の廃止を求める会長声明

 第171回国会に上程されていた海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案(海賊行為対処法案)は、本年6月19日、参議院で否決されたにもかかわらず、同日、衆議院の特別多数決で再可決され成立した。そして、本年7月24日、防衛大臣は同法に基づく海賊対処行動を自衛隊に命じ、先に自衛隊法に基づきソマリア沖に派遣されていた海上自衛隊の護衛艦などが海賊行為対処法による活動を開始した。

 当会は、本年3月25日付け会長声明で、自衛隊法82条に基づく海上警備行動として、わが国の領海から遥か遠いソマリア沖に自衛隊を派遣することは自衛隊法及び憲法に抵触するおそれがあることを指摘するとともに、海賊行為対処法案についても憲法に違反する疑いがあると指摘し慎重審議を求めたが、憲法の根本原理に関わる問題であるにもかかわらず短期間の審議と多数の力で決せられた。

 海賊行為対処法は、次に述べるとおり、日本国憲法に違反するおそれが強く、当会は、この法律の制定に改めて強い遺憾の意を表明する。

  1. 海賊行為対処法は、自衛隊が海賊対処行動を行うことや一定の場合に自衛官が武器を使用することができる旨を規定するが、その活動地域や保護対象となる船舶について限定がない。しかも、緊急事態に対処する特別措置法ではなく、恒久的な対応法とされている。従って、自衛隊が、自衛隊法で定める領海の公共秩序を維持する目的の範囲(自衛隊法3条1項)を大きく超えた世界の公海上で、全ての国籍の船舶への海賊行為に対処し、一定の場合に武器使用まで行うことを可能にするものである。
    これは、政府解釈に立っても「専守防衛」に限られる自衛隊の活動の限界を超えるものであり、武力による威嚇又は武力の行使を禁止した、わが憲法9条に違反するおそれが大きい。
  2. 海賊行為対処法では、自衛官が船体射撃(海賊船の機関部をめがけての射撃)や危害射撃(人に危害を与える射撃)を行うことのできる要件が、「他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由のあるとき」と、極めて曖昧な規定となっているため、安易な武器使用がなされる危険性を否定できない。これは、威嚇行為を含め一切の武力行使を禁止した憲法9条に違反するおそれが大きい。
  3. 海賊行為対処法によれば、自衛隊に海賊対処行動を命ずる判断は、内閣総理大臣の承認のもと防衛大臣が行うものとされ、内閣総理大臣は国会に事後的な報告をすれば足りるものとされており、国会は承認機関としてさえ位置づけられていない。このように国会を通じた民主的コントロールの観点からも極めて重大な問題があると言わざるを得ない。

 現に海賊行為が行われているソマリア沖の問題を解決するために国際協力が必要であることは言うまでもない。しかしながら、武力を放棄し恒久平和主義を宣言した日本国憲法を有するわが国がとるべき国際協力の方法は、自衛隊の海外派遣という手段ではなく、問題の根源にあるとされる無政府状態を原因とする貧困状態の解消のための協力、沿岸国の海上警備に関する技術支援など非軍事的分野での国際協力によるべきである。

 よって、海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律は速やかに廃止されるべきであり、ソマリア沖への自衛隊の派遣は中止すべきである。

2009年8月10日
札幌弁護士会 会長  高崎 暢

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