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最高裁第二小法廷は、2009年11月30日、政党のビラを配布するために分譲マンションの共用部分に立入った者が住居侵入罪に問われた事件の上告審で、罰金5万円の刑を言い渡した原審判決を支持し、上告を棄却した。
最高裁は、表現の自由を民主的政治過程の維持のために必要欠くべからざる基本的人権と位置づけ、その重要性を承認している。本判決でも、その重要性を一般論としては認めながらも、他人の権利を不当に害することは許されないとして、マンション管理組合の意思に反して立ち入ったことをもって、管理権を侵害し、住人の私生活の平穏を侵害したと断じた。
ビラの戸別配布は、市民が表現の自由を行使するにあたって貴重な手段であり、特に政治的活動に関するビラの配布は、発言の場を持たない市民やメディアを利用できない市民にとって最も有効な表現手段となっている。ところが、本判決は、表現の自由とこれと衝突する権利である管理組合の管理権及び住人の私生活の平穏を並列的に論じ、後者が具体的に侵害されたかを十分に検討することなく、直ちに刑事罰をもって臨むことを認めた。
これでは、受け手が表現内容を見て判断する機会を不当に奪うことになりかねず、ビラの戸別配布が国民の自由な討論と民主的な合意形成を支える重要な権利であることを軽視していると言わざるを得ない。今後、捜査機関がビラ配布に対する刑事処罰を一層強化していくことが懸念される。
日本における政治ビラの戸別配布に対する制限については、国際社会から厳しい目が向けられており、国際人権(自由権)規約委員会は、2008年10月、「政府に対する批判的な内容のビラを私人の郵便受けに配布したことに対して、住居侵入罪もしくは国家公務員法に基づいて、政治活動家や公務員が逮捕され、起訴されたという報告に懸念を有する」旨を表明し、日本政府に対し「表現の自由に対するあらゆる不合理な制限を撤廃すべきである」と勧告を行っている。
日弁連は、2009年11月6日、人権擁護大会において、民主主義社会における市民の表現行為の重要性に鑑み、市民の表現の自由及び知る権利を最大限に保障するため、関係各機関に対し、政治的表現行為に対する不合理な規制を行わないことを求める提言を行った。
当会は、表現の自由を守るために積極的、継続的に取り組んできた立場から、裁判所に対し、今後ビラ配布を含む表現の自由の重要性に十分配慮し、国際的な批判にも耐えうる厳密な利益衡量に基づく判断を示すよう強く要望する次第である。
以 上
2010年2月2日
札幌弁護士会 会長 高崎 暢
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