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声明・意見書2009年度

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死刑執行にともなう会長声明

 2009年7月28日、政府は、3名の死刑確定者に対し死刑を執行した。

 当会は、これまでも、会長声明を通して、死刑制度の存廃について国民的議論が尽くされるまで死刑の執行を停止するよう政府に要請してきた。それにもかかわらず、本年に入って死刑が執行された者は7名にものぼり、誠に遺憾であり、改めて政府に強く抗議する。

 1989年12月、国連総会は、死刑廃止条約を採択し、国連人権委員会(現国連人権理事会)は、1997年4月以降、「死刑廃止に関する決議」を行い、死刑存置国に対して、「死刑の廃止を視野に入れ、死刑執行の停止を考慮するよう求める」等を呼びかけてきた。さらに、2007年12月、国連総会は、「死刑執行停止を確立することを求める決議」を、104カ国の賛成をもって可決した(反対は54カ国、棄権が29カ国)。

 国連の動きに呼応するように、死刑廃止国は着実に増加している。2009年6月現在、死刑存置国58か国に対し、死刑廃止国139か国となっている。この死刑廃止国の中には、死刑制度を存置してはいても、過去10年以上執行しておらず、死刑執行をしない政策または確立した慣例を持っていると思われる国や死刑不適用の国際的公約をしている事実上の廃止国を含む。

 しかし、わが国は、この死刑廃止の国際的潮流に反し、昨年は15件、過去30年間で最多の死刑を執行した。昨年10月、国際人権(自由権)規約委員会は、わが国の人権状況に関する審査の総括所見において、死刑制度については、政府は世論を理由に避けるのではなく死刑廃止を前向きに検討すること、死刑確定者の処遇及び高齢者・精神障がい者への死刑執行に対し、より人道的な対応をとること、執行日時を事前に告知すること、恩赦・減刑・執行の猶予が利用可能となること、必要的上訴制度を導入し、再審・恩赦の請求による執行停止効を確実にすること、再審弁護人との秘密接見を保障することを勧告した。

 日弁連は、既に、2002年11月、「死刑制度問題に関する提言」の中で、時限立法として「死刑執行停止法案」を示している。その提言は、政府は、死刑に関連する情報(少なくとも、執行直前において精神障がいなどについて適切な検査をしたのか、再審や恩赦等の手続について、死刑確定者の意向を充分把握していたのか等)についての情報等を最大限開示し、死刑の犯罪抑止力効果及び停止期間中の犯罪情勢の推移と死刑執行停止の相関関係の調査・検討等現行死刑制度の持つ複数の諸問題について検討審議を尽くした上で、死刑制度の存廃の検討・見直し等国民的議論がなされるのに必要な相当期間、死刑確定者に対する死刑執行を停止するという内容である。

 本年5月21日には裁判員裁判制度が施行され、一般市民が死刑を言い渡す可能性のある重大犯罪の裁判にも加わることとなり、国民の中で死刑をめぐってかつてないほど活発な議論が展開されつつある。とりわけ、本年6月23日、無期懲役が確定した足利事件の再審開始決定がなされたが、不確実な技術だったDNA鑑定に基づいて死刑判決が言い渡され、昨年死刑が執行された飯塚事件も、国民の注目を集めている。なお、飯塚事件では、今秋の再審請求を目指し、DNA鑑定を依頼したと伝えられる。有罪の決め手となったDNA鑑定が誤っていたとしたならば、もはや取り返しがつかない。

 以上の状況を踏まえ、当会は、今般改めて、政府に対し、国連の決議や勧告を真摯に受け止め、わが国における死刑確定者の処遇、死刑執行対象者の決定手続と判断方法、死刑執行の具体的方法と問題点などに関する情報を開示するとともに、死刑制度の存廃について国民的議論が尽くされるまで死刑の執行を停止するよう強く要請する。

2009年8月10日
札幌弁護士会 会長  高崎 暢

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