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深刻化した多重債務問題に対処するために、2006年12月に、出資法の上限金利の引き下げ、及び収入の3分の1以上の貸付の禁止(総量規制)を柱とする改正貸金業法が成立し、2010年6月18日に完全施行され、今般2年が経過した。
改正貸金業法の施行及び官民を挙げた多重債務者対策の拡充により、多重債務者は確実に減少している。貸金業法改正前の2005年には18万件以上あった個人の自己破産申立件数が、2011年には約10万件に減少しているほか、5社以上の借入れを有する多重債務者も、2007年2月から2011年4月までに100万人以上減少し、また多重債務を原因とする自殺者数も2007年に約2000名だったものが2011年までに半減するなど、本改正は多重債務問題解決のために大きな成果を上げている。
ところが、昨今、一部の国会議員の中に、金利規制・総量規制の緩和を求め、貸金業法を「再改正」する動きが見られる。その根拠は、①総量規制等のために貸付を受けられない者が増加していること、②特に中小企業が短期の資金繰りに困っていること、③その結果、貸付を求める者がヤミ金融に流れて被害が増加していること等を挙げている。
しかし、①については、そもそも経済的に逼迫し貸付を受けられない者に高金利で貸付をしてもその者の生活や事業が破綻するだけであり、長期的に見れば救済にはつながらない。経済的に逼迫した市民や事業者の救済には、高金利の貸付に頼らなくても生活できるセーフティネットや低金利融資制度の拡充こそが求められる。
②についても、資金繰りに苦しむ中小企業に対し、たとえ短期小口に限定したとしても、高金利で貸付をすれば、いずれ資金繰りにショートすることは目に見えている。そこで国は緊急保証、セーフティネット貸付及び中小企業に対する金融円滑化対策を実施し、地域金融機関等による支援策を行っているところである。
そして、③については、ヤミ金融被害が増加していることを示す客観的データは見受けられないし、当会の内外からもそのような指摘を受けたことはない。むしろ、警察庁は2011年6月に、ヤミ金融事件の被害が増加している状況は把握していないと発表している。そもそもヤミ金融は犯罪であり、その徹底的な取締こそが求められるのであって、貸金業法の再改正で解決すべき問題ではない。
以上の次第であり、現在議論されている方向で貸金業法を「再改正」する必要は全くない。
当会は、改正貸金業法が完全施行されてから2年が経過したことを契機に、改正貸金業法の成立及び完全施行を改めて評価するとともに、同法の規制緩和の動きに強く反対する。
また、当会は、改正貸金業法の成果を確認しながら、残された多くの課題にも積極的に取り組んでいくことをここに表明する。
2012年(平成24年)7月25日
札幌弁護士会 会長 長田 正寛
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