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違法ダウンロードに対し刑事罰を科すこと等を内容とする著作権法の一部を改正する法律が2012年6月20日、参議院本会議で可決、成立した。これにより、違法にアップロードされた有償著作物等(音楽・映像等)を違法と知りながらダウンロードする行為に対し、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金が科され又はその併科がなされることになった。同改正法は2012年10月1日から施行される。
しかしながら、上記改正法の刑事罰規定には、以下のとおり重大な問題がある。
第1に、私的領域における行為に対するに刑事罰を導入するには極めて慎重でなければならないところ、私人による個々の違法ダウンロードは2009年に初めて民事上違法とされたものであり、未だ刑事罰を導入するだけの当罰性のある行為であると認識されるには至っていないというべきである。また、違法ダウンロードを民事上違法としたことの適用実態や利用者への影響について検証を行わないまま、国民生活に重要な影響を及ぼすであろうと考えられる刑事罰を導入する改正法案を僅か5日間の審議で成立させたもので、立法事実の精査が十分になされているとは言い難い。
第2に、2009年の著作権法改正により私的使用目的であっても民事上違法とされた複製行為(著作権法第30条1項柱書の適用が除外されている同項各号の複製行為)のうち、ダウンロードについてのみ刑事罰を導入するのは刑の均衡を失する。
第3に、音楽関連ファイルだけでも年間推計12億ファイルを超えるとされる違法ダウンロードの全てを摘発することは不可能であることに照らすと、警察による摘発が恣意的になされる恐れがある。加えて、取締対象となる行為が広範かつ膨大であることから、国民のコンピューターネットワーク利用に対する萎縮効果は計り知れない。
以上のとおり、違法ダウンロードに対する刑事罰の導入は看過し得ない問題を抱えているところ、コンテンツ産業の健全な成長を阻害するおそれのある違法ダウンロードへの対処は、違法アップロードに対する罰則規定の活用や著作権教育の一層の充実など、他のより制限的でない代替手段によるべきで、刑事罰の導入によって解決を図るべきではない。
よって、当会は、違法ダウンロードに刑事罰を導入したことに強く抗議し、2012年改正著作権法における当該刑事罰規定の廃止を求める。
2012年(平成24年)8月10日
札幌弁護士会 会長 長田 正寛
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