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声明・意見書2012年度

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人権救済申立に対する勧告書

月形刑務所
所長 谷 広次 殿

2012年8月29日
札幌弁護士会 会長  長田 正寛
札幌弁護士会人権擁護委員会 委員長   米屋 佳史

勧告書

当会は、申立人Aからの人権救済申立について、人権擁護委員会(以下「当委員会」という。)の調査結果に基づき、下記のとおり勧告する。

勧告の趣旨

申立人を、動静監視を目的とせずに監視カメラ付き単独室へ収容した際に、実際には監視カメラを作動させていなかったとしても、監視カメラレンズ部分を遮蔽するなど監視カメラによる動静監視を行っていないと外形的に認識させるよう措置をしなかったことは人権侵害である。
今後、被収容者を、動静監視を目的とせずに監視カメラ付き単独室へ収容する場合は、監視カメラによる動静監視を行っていないと外形的に認識させる措置を取るよう勧告する。

勧告の理由

第1 申立の趣旨

申立人が、2008年10月2日から同年11月7日までの間、監視カメラ付きの単独室に収容されたことは、人権侵害である。
なお、申立人は、このほかに2点の申立てを行っているが、1点(不当懲罰)については、2009年12月16日付けで本調査不開始とされ、もう1点(出役待機として単独室に収容された)については、他の同種案件(脱法的隔離)とまとめて、現在、本調査中である。

第2 当委員会の調査の経過概要

2009年03月27日 本人宛照会(出所済で本州在住のため)
2009年04月08日 本人からの回答
2009年07月15日 月形刑務所宛照会
2009年08月10日 月形刑務所からの回答
2009年10月13日 月形刑務所宛照会
2009年11月12日 月形刑務所からの回答
2010年03月15日 本調査開始決定
2011年01月13日 月形刑務所宛照会
2011年01月13日 月形刑務所からの回答
なお、上記は、本申立の趣旨に関する調査のみを記載した。

第3 当委員会の判断

  1. 申立人の主張の要旨
    申立人は、2008年8月11日以降、懲罰又は制限区分第4種指定を理由に監視カメラなし又は監視カメラ付きの単独室に収容された。監視カメラ付き単独室に収容された理由については、戸外運動場の落書きに対する調査を開始した際に、「(不当調査に対し)イライラしているから」「部屋がないから」との理由であると認識した。
    申立人は、上記監視カメラ付き単独室への収容について、監視カメラが作動していないとの説明も受けていなかったため、相応の理由なく24時間監視されているものと考え、人権救済を求めた。
  2. 月形刑務所による回答の要旨
    当委員会は、月形刑務所に対し、計3回の文書照会を実施したところ、それぞれ回答があった。本申立の趣旨に対応する部分の回答の要旨は以下のとおりである。 ア 申立人の単独室処遇の経緯、制限区分等
    2008年08月11日 集団形成・自傷行為を理由に20日間の閉居罰
    2008年08月31日 制限区分第4種指定
      同日昼夜単独室(監視カメラなし)処遇開始
    2008年10月02日 戸外運動場の落書きに対する調査開始
      同日監視カメラ付き単独室収容開始
    2008年11月07日 監視カメラ付き単独室収容終了
      同日監視カメラなし単独室に移動
    2008年12月25日 単独室収容終了(本人談)
    イ 監視カメラ付き単独室について
    1. 監視カメラ付き単独室に収容した理由
      居室配置の都合から、やむを得ず、監視カメラが設置してある居室に収容した。
    2. 同居室に収容中の監視カメラの作動の有無
      監視カメラを使用して、申立人に対し、動静監視を行った事実はない。
    3. 申立人に対し、監視カメラ付き単独室に収容した理由の説明の有無
      していない。
    4. 申立人に対する、同室の監視カメラが作動していないことについての説明の有無
      なし。
    5. 撮影を行っているか否かを外見から識別できる措置の有無
      なし。
    6. 監視カメラの死角や構造
      警備上の理由から回答できない。
  3. 当委員会の判断 ア プライバシー権の侵害
    着替えや排便を含む被収容者の一挙手一投足のすべてを24時間監視され続けることは、施設管理・秩序維持等の観点から通常の単独室において実施される監視の程度を超えて、被収容者のプライバシーを侵害し、屈辱感を与え、その動静に対する萎縮効果を与える等、個人の尊厳を脅かすものである。
    しかし、上記調査結果によれば、申立人が収容されていた監視カメラ付き単独室について、同人の収容期間中監視カメラが作動していたと認定することは、当会の調査能力との関係で困難である。
    そのため、申立人のプライバシー権自体が客観的に侵害されたものとすることはできない。
    イ 人格権の侵害
    しかしながら、本件においては、仮に、監視カメラが作動していなかったとしても、監視カメラのレンズ部分がむき出しのままであり、かつ、作動の有無を示すランプを外部から確認できる構造になっていない以上、申立人は、当然に監視カメラによる動静監視が行われていると考えるものであり、そう考えることについての相応の根拠も認められる。
    また、刑務所側は、監視カメラの死角について回答を拒否しているが、死角があれば監視の実効性に欠けることから、居室での作動のすべてが監視できる状態であると考えることは当然である。
    このような場合、実際に監視カメラによる動静監視が行われていた場合と同様の屈辱感や動静に対する萎縮効果が被収容者に生じる。
    個人の人格の尊厳は近代民主主義思想の根底をなすものであり、憲法第13条は、そのような個人の尊重、その生命・自由及び幸福追求という個人の人格的生存に不可欠の権利を宣明し、公共の福祉の実現を任務とする国家も、これらの権利に最大の尊重を払うべきことを要求している。
    このような観点からすれば、国家機関が自己の動静を24時間監視し続けていると相応の根拠をもって思わせることにより、対象者に屈辱感や動静に対する萎縮効果を与えるべきでないことは、いわゆる人格権の一つとして同条により保障されていると解すべきである。
    もっとも、対象者が被収容者である本件において、刑務所という憲法が認めた拘禁施設の維持に必要な範囲での制約は免れないが、本件においては、監視カメラレンズ部分に剥離が容易である不透明なテープを張るなどの遮蔽措置をとることも容易であり、収容終了後に当該目張りを撤去すればその後に警備上の支障が生じることはない。
    なお、単に監視カメラが作動していない旨を告知するのみでは、監視カメラの動静を外部から確認できない構造である以上、被収容者の前記権利の侵害防止には不十分であり、レンズ部分の遮蔽等の外形的措置は必須である。
    このように、レンズ部分の遮蔽等の外形的措置が容易かつ弊害がない以上、実際に監視カメラを作動させていないという一事をもって、刑務所がこれら措置をしないまま安易に監視カメラ付き単独室に収容することは、拘禁施設の維持のために必要な範囲で認められる限度を超えて、申立人の人格権を過度に制約するものであって、今後の侵害防止について、レンズ部分の遮蔽等の外形的措置をとることを強く求めるものである。
  4. 結論
    よって、当会は、月形刑務所に対し、勧告の趣旨のとおり勧告する。

以上

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