- 国は、昨年、司法修習生に対して、64年間にわたって実施してきた修習期間中に給与を支給する制度(給費制)を廃止した。
- しかしながら、わが国は、司法の人権保障機能を支える法曹(裁判官、検察官、弁護士)の重要性に照らし、質の高い法曹を養成する観点から、司法試験合格者を直ちに実務に就かせず司法修習を受けさせ、修習期間中、修習に専念する義務を課し(裁判所法第67条2項)、アルバイトその他の経済的利益を得る活動を禁止している(司法修習生に関する規則第2条)。
給費制は、司法修習生の生活を保障するための代償措置であり、高度の専門的能力と職業倫理を兼ね備えた質の高い法曹を養成するための制度的保証というべきものであった。
この観点からすれば、法曹養成制度全体との関係を総合的に検討することなく給費制を先行して廃止したことは、従前の法曹養成に対する方針と矛盾するだけではなく、わが国の司法を支える法曹に重大な悪影響を及ぼしかねない。
- 本年11月27日から、第66期司法修習生の司法修習が開始され、2035名の司法修習生が全国各地の地方裁判所に配属された。
給費制を廃止された司法修習生は、生活費はもとより、実務修習地や司法研修所に赴任する際の交通費、転居・居住費等の諸経費について、全て自弁を強いられる。現に、本年、札幌地方裁判所に配属となった司法修習生60名も、その半数が北海道外から札幌市への転居を余儀なくされている。
とりわけ、経済的に裕福でない司法修習生は、修習専念義務との関係上、司法修習の経費や生活費等のために国から貸与を受けざるを得ないところ、新たに、標準額で276万円、扶養家族を抱え家賃等を負担する者は最大で336万円もの債務を負うことになる。このような司法修習生は、すでに法科大学院在学中に多額の奨学金の貸与を受けている者が多く、さらに債務を増やすことになる。
加えて、昨今の弁護士の就職難は深刻度を増し、また、新人弁護士の給与水準は著しく低下しており、このような状況下で、多額の債務を負担することへの不安を訴える司法修習生も多く、法科大学院への入学志願者数が激減している要因に連なっている。
収入のない司法修習生に自己犠牲を強いることは、有為かつ多様な人材が法曹への途を敬遠する現象につながる。
- 本年7月27日に成立した「裁判所法及び法科大学院の教育と司法試験等との連携に関する法律の一部を改正する法律」は、法曹になろうとする者が経済的理由から法曹になることを断念することがないよう法曹の養成に対し適切な財政支援を行なう観点から法曹の養成における司法修習生の修習の位置付けを踏まえつつ検討が行われるべきものとし、付帯決議において、司法修習生への経済的支援については修習専念義務の在り方等多様な観点から検討し必要に応じて適切な措置を講じることとされた。
給費制の廃止はわが国の司法を支える法曹の基盤を脆弱化させ、ひいては市民の権利保障を後退させてしまうことになる。
よって、当会は、政府及び国会に対し、早急に、司法修習生に対する給費制を復活させることを求める。
2012年(平成24年)12月14日
札幌弁護士会 会長 長田 正寛