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声明・意見書2012年度

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実効性ある集団的消費者被害回復に係る訴訟制度の創設を求める意見書

平成24年5月25日
札幌弁護士会
会長 長田 正寛

第1 意見の趣旨

  1. 当会は、消費者庁が2011年12月に公表した「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度の骨子」(以下「骨子」という。また、制度を指す場合は「本制度」という。)につき、これまで個別訴訟による被害回復が困難であった消費者被害の救済に資する画期的な制度として、これを基本的に高く評価するとともに、本制度の早期の実現を強く求める。
  2. 本制度の立法化にあたっては、より消費者被害の救済のために実効性のあるものとなるよう、骨子で示された内容について、少なくとも以下の点につき、改善すべきである。 (1)本制度の対象事案については、消費者契約の相手方以外の事業者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権(金融商品取引法上の責任を含む。)を含めるなどし、本制度の対象事案に、個人情報流出事案、有価証券報告書などの虚偽記載等に係る事案及び契約を締結する場面に関する虚偽又は誇大な広告・表示に関する事案(広告・表示をした者が消費者契約の相手方とは別の事業者である場合を含む。)等が含まれるように規定すべきである。 (2)二段階目の手続における通知・公告費用については、一段階目の手続で敗訴した被告に負担させることを原則とすべきである。
    仮に、二段階目の手続の申立団体が通知・公告費用を負担することが原則とされる場合であっても、通知・公告費用の負担が本制度の活用を阻害することのないよう、裁判所が被告に負担させることができる場合を広く認めるとともに、通知・公告費用の公的立替払制度等を設けることが検討されるべきである。
    (3)手続遂行主体については、適格消費者団体以外の者にも拡大するよう、今後引き続き検討すべきである。

第2 意見の理由

  1. 消費者被害の実態と新たな訴訟制度の実現の必要性 (1)消費者被害の実態
    全国の消費生活相談件数は、平成22年度で約90万件(全国消費生活情報ネットワーク・システム情報)と依然として高い水準で続いている。北海道内においても、平成22年度に道立消費者生活相談センターに寄せられた相談件数だけでも約7300件にのぼる(北海道消費者生活センター平成22年度消費生活相談報告書)など、消費者被害は後を絶たない状況が続いている。
    (2)新たな訴訟制度の必要性
    多数の消費者を巻き込んだ消費者被害事件が後を絶たない状況のもと、被害に遭った個々の消費者がその被害を回復するためには相応の費用・労力を要するところ、事案の全容を把握することができない消費者個人では事案の解明が困難であることや、個々の被害が少額であることが多いこと、更には、消費者が被害に遭っていることを自覚しないことがあること等により、個々の消費者が個別に被害救済を図ることは非常な困難を伴うものである。
    集団的消費者被害救済のためには、骨子に示されたような新たな訴訟制度を創設することが必要である。
    (3)本制度を実現すべきこと
    本制度は、このような新たな訴訟制度創設の必要性を踏まえ、多数の消費者被害が生じた場合において、多数の消費者に共通する事業者との間の争点について、特定適格団体が確認を求める訴訟(一段階目の手続)を提起することができ、その確認判決が確定した後、被害を受けた個々の消費者が手続(二段階目の手続)に加入するというものである。
    すなわち、多数の消費者との紛争を一つの手続によって一回的に解決しようとする制度であり、それによってこの制度がなければ救済に結び付かない多数消費者の権利の実現を図ろうとするものであり、また、そのような一回的解決が司法制度及び社会全体にとっても公正でかつ効率的であるとの考慮に基づくものである。また、事業者にとっても、このような一回的解決が図られることにより、個々の消費者との紛争を個々の手続において解決するよりも応訴負担は軽減されるという利点もある。本制度が存在することにより、事業者のコンプライアンス(法令遵守)経営の徹底がより推進されることは、消費者被害の未然防止につながり、ひいては、社会全体として消費者被害の発生や消費者紛争の解決にかかるコストの軽減につながるものといえる。
    このように、本制度は、消費者の正当な権利の実現はもちろん、我が国の経済社会の健全なる発展に資するものとしても積極的に評価されるべきものであり、是非とも立法化により実現しなければならない。
  2. 本制度を実効性あるものとするために具体的に検討すべきこと
    消費者庁が公表した本制度の骨子は、基本的には高く評価できるものであるものの、その具体的な内容をみるに、二段階目の手続における通知・公告費用を適格消費者団体に負担させることを原則とするなど、本制度の実効性が損なわれることが懸念される点が存在する。
    そこで、当会としては、本制度が集団的消費者被害の救済のために、より実効性のあるものとなることを願い、早期の本制度の実現を図る場合であっても、少なくとも、以下の項目については更なる検討を求める。 (1)対象となる権利について
    どのような事案について本制度を利用できるものとするかは、本制度を消費者被害の救済のために実効性のあるものとするために極めて重要であるところ、骨子において示された本制度の「対象となる権利」では、消費者契約が存在することを前提としていること等の結果、本制度の利用により救済することのできる消費者被害の範囲が極めて限定されてしまっている。
    たとえば、個人情報流出事案、有価証券報告書等の虚偽記載等に係る事案、消費者とは契約関係にない事業者が虚偽又は誇大な広告・表示をする事案は、まさに共通の原因によって多数の消費者が定型的な損害を受ける典型例として、本制度による被害救済に相応しい事案というべきであって、直接の契約関係があるか否かで区分けする合理性は見いだせない。
    消費者と契約関係がある事業者に対する責任追及にしか本制度を利用できないのでは不十分であり、本制度の利用に適する消費者被害事案が広くその対象に含まれるようにすべきである。
    (2)二段階目の手続(個別請求権の確定訴訟)における通知・公告について ア 骨子では、対象消費者に対して二段階目の手続への加入を促すための通知・公告にかかる費用につき、原則として同手続の申立団体が負担するものとした上で、事情により、被告に負担させることができるものとするとされている。
    しかしながら、二段階目の手続に移行するのは、一段階目の手続において認容判決が確定するなど、被告に少なくとも責任が認められている場合である。
    したがって、本来は、事業者が自主的に自己の費用負担において対象消費者に対して損害賠償を申し出るべきであるところ、これによらずに対象消費者自らに加入申出という行為を個々に行わせる手続を利用することによって、事業者は、自らの義務を簡便な手続によって履行することができるだけでなく、本制度の利用により紛争の一回的解決というメリットを享受できるのであるから、これに必要な費用は事業者が負担するものとすることが合理的である。
    また、通知・公告費用を原則として申立団体が負担することになれば、これを担うことが予定されている適格消費者団体がいずれも財政的に決して豊かとはいえない現状に鑑みると、通知・公告費用の負担を理由に本制度の利用を断念せざるをえない事態も想定され、本制度の実効性が著しく阻害されるおそれがある。
    さらに、通知・公告費用を申立団体が負担することになると、制度運用上、被告から得られた損害賠償金から共益費として通知・公告費用を控除せざるをえないことから、終局的には対象消費者の負担となり、特に個々の被害額が少額な場合は、被害救済という制度目的を大きく損なうことになりかねない。
    したがって、通知・公告費用については、原則として一段階目の手続で敗訴した被告が負担するものとされるべきである。
    イ 仮に、申立団体が通知・公告費用を負担することとされる場合、申立団体は、二段階目の手続により被告から支払われる賠償金から当該費用を回収することとなると考えられるものの、二段階目の手続を進めるためには、通知・公告費用をまずは申立団体自身が現実に支出する必要がある。
    そして、事案によっては申立団体が自己負担しうる金額を超える通知・公告費用が必要となる場合も考えられ、まさにそのような事案こそ、本制度の活用により消費者の被害救済が図られるべきであるにもかかわらず、申立団体が事前に費用を負担できないがために本制度を利用できないということとなり、本制度の実効性を大きく損ねる結果となる。
    したがって、申立団体の規模・財政状況、対象消費者の数、被告の規模・資金力等の事情を総合的に考慮して、裁判所が被告に負担させることができる場合を広く認めるべきである。
    ウ また、被告の経営状態の悪化等の影響により、被告から実際に回収できる賠償金が、結果的に、通知・公告費用を含む手続費用に不足するケースも想定されないわけではないところ、そのような場合の通知・公告費用は、終局的にも申立団体自身の負担となり、申立団体の財政を圧迫することになりかねないことから、申立団体による本制度の活用が過度に慎重なものとなるおそれがある。 エ 本制度は、前述したように集団的消費者被害を実効的に救済することだけでなく、本制度が存在すること自体による事業者によるコンプライアンスの徹底による消費者被害の発生防止・拡大防止につながり、消費者一般が安心して消費生活を営むことができる社会の実現に寄与する公益性の高い制度であることに鑑みれば、本制度に実効性を高めるための方策の一つとして、通知・公告等の申立団体自身がまずは支出する必要のある費用について国が立替払いをする制度や、万一、被告から回収した賠償金の金額が立替払金の金額に不足するような場合の償還減免制度等、通知・公告費用の負担が本制度の利用の妨げにならないようにする手立てが検討されるべきである。
    (3)手続遂行主体(訴訟を担う主体)について
    消費者庁の骨子では、本制度を担う手続遂行主体につき、適格消費者団体に限定することとされている。
    しかしながら、被害者集団、被害者弁護団等、一定の消費者の利益を代表する団体が手続遂行主体として適当な場合もありえるのであり、論理必然的に適格消費者団体に手続遂行主体が限定されるものではない。骨子に先立つ「集団的消費者被害救済制度専門調査会報告書」(平成23年8月)においても、本制度施行後の状況を踏まえ引き続き検討するべきとしており、手続遂行主体の範囲を拡大するための検討が必要である。
  3. 早期実現の必要性
    前述したように、平成23年8月に専門調査会報告書が公表され、これを受けて消費者庁は、同年12月9日、骨子を公表した。
    集団的な消費者被害を救済するための新たな訴訟制度については、前述したように、従前からその必要性が指摘されてきたところであり、消費者庁及び消費者委員会設置法附則第6項において、「消費者庁関連三法の法施行後3年を目途として、加害者の財産の隠匿又は散逸の防止に関する制度を含め多数の消費者に被害を生じさせた者の不当な収益を剥奪し、被害者を救済するための制度について検討を加え、必要な措置を講ずるもの」とされ、同法案に対する附帯決議においても、適格消費者団体による損害賠償等団体訴訟制度等の活用を含めた幅広い検討を行うこととされていた。
    今般、消費者庁の公表した骨子において、消費者被害を集団的に救済するという我が国にこれまでなかった訴訟制度の実現が具体的になったことは、画期的なことである。
    多数の消費者を巻き込んだ消費者被害事件が依然として後を絶たない現状に鑑みれば、かかる制度の導入が一日も早く実現されるべきであることは明らかであり、当会は、現在開かれている本通常国会で審議するなど、早急に立法化することを強く求めるものである。

以上

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